今月の健康コラム

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大腸憩室

大腸とは?

大腸は、口から食べた物の消化と吸収をする消化管の終盤に位置する約1.5mの管(くだ)のような臓器です。大腸は結腸・直腸に分けられ、結腸の役割は液状となった内容物から水分を吸収して糞便にして直腸に送ることです。

大腸憩室とは?

大腸憩室は、結腸の内側の膜が弱くなった筋層を越えて突出した袋状の構造です。その大腸憩室を持っていることを大腸憩室症といいます。大腸憩室自体は悪いものではなく、ほとんどの憩室症では症状はみられません。

大腸憩室症について

中高年者、便秘傾向な方に多いと考えられております。日本では大腸憩室を持っている方は増加傾向ですが、米国と比較して少ないです(2011年までの報告)。日本では大腸憩室は右側の結腸に多く、年齢とともに左側の結腸の割合が増加する傾向があります。

大腸憩室はまれに炎症や出血をきたすと以下の疾患を引き起こします。

①大腸憩室炎

②大腸憩室出血

 

①大腸憩室炎

大腸憩室に炎症をきたすと大腸憩室炎となります。症状は腹痛や発熱などがあります。大腸憩室炎を引き起こす正確な頻度はわかっておりません。死亡率は、膿(うみ)がたまったり等の合併症がある場合は2.8%ですが、合併症がない場合は0.2%です。喫煙が大腸憩室炎の合併症を悪化させるのに関与している可能性が高く、肥満も関連が示唆されておりますが、その他の発症や悪化の関連ははっきりしておりません。診断は、CT等の画像検査で行い、治療は、原則的に抗菌薬投与など内科的治療を行います。

②大腸憩室出血

日本では大腸憩室をもっている人の(累積)出血率は0.2%/年、2%/5年、10%/10年と報告され、出血率は増加傾向と考えられています。また、再出血率は1-2年で30-40%程度と比較的再出血をきたしやすいといわれております。大腸憩室出血および再出血リスクを高める要因として、低用量アスピリンなどの血液をサラサラにする薬や非ステロイド性抗炎症薬という解熱鎮痛薬服用者の増加が推定されております。頻度は高齢者に多く、男性に多い傾向があります。死亡率は1%程度ですが、大腸憩室出血の自然止血率は7090%程度です。診断は造影CTなどの画像検査、大腸内視鏡検査が用いられ、治療は安静・点滴を行い、出血が多い場合などは、緊急の大腸内視鏡検査を行います。どうしても止められない場合は動脈塞栓術や手術を考慮いたします。

以上が大腸憩室症、大腸憩室から引き起こされる疾患についてです。

大腸憩室の有無が気になるようでしたら一度大腸内視鏡検査などを受けてみてはいかがでしょうか?

参考文献:

日本消化管学会雑誌

大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン 2017
(佐久間)

CT検査とMRI検査の違いってなに??

「肺はMRIじゃダメなの?」、「CTMRIでは、どちらが良いの?」という声をよく聞きます。

CTもMRIも、どちらも大きな筒の中に寝た状態で入る検査であり、装置の見た目が似ており、違いがわからない方も多いかと思います。

最近では人間ドックや健診にCTMRIの検査がオプションでついているものが多く、当院でもCTMRI検査をご選択頂くことが可能です。

画像検査には多くの方になじみが深いレントゲン検査がありますが、その他にも、超音波検査、CTMRI、核医学検査などがあり、それぞれ特性が異なります。この記事の中ではCTMRIに焦点をあてて、それぞれの特徴を説明していきます。

「CTとMRIでは、どちらが良いの?」

CT、MRI、それぞれに得意・不得意があるため、どちらの検査が優れているということはありません。

どちらの検査が最適なのかは、臓器や構造物の特性、検査部位や症状・病状・既往によって適応が変わってきます。

「CTとは・・・」

CTとは、(Computed Tomography:コンピュータ断層診断装置)の略で、X線を利用して体内の状態を断面像として描写する検査です。

体の断面を撮影した複数の写真をコンピュータ処理して、希望の部位の画像を出力したものがCT検査です。

X線管が、X線を出しながら体を一周し、それを検出器で読み取り、人体を輪切りにしたような断面画像や、立体的な画像を得ることができます。そのため、1枚のレントゲン写真より情報量が多く、詳細な診断ができます。

 

大雑把に言えば、 CTは「体内の固さ」を画像化する装置 です。 X線は柔らかなものは通り抜けますが、堅いものほど通り抜けにくいので、 CT装置は、体に多方向からX線を当てて、 通り抜けたX線の量を測定することで、 「体の どこに固いものがあるか、 どこが柔らかいものがあるのか」を計算し、 画像化しています。

 

「MRIとは・・・」

それに対して、MRIとは、(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断装置)の略で、強い磁石と電波を利用して体内の状態を断面像として描写する検査です。体の細胞に含まれる水素原子を、磁力と電波によって影響を与えて画像化します。

成人の体重の 60~70%は水分といわれており、 水素原子は体のどこにでもあり、 データが取りやすいことを利用しています。

MRIでは 、体内のどこに水素原子があるか、水素原子がどのような状態にあるのかに基づき、水素原子が出す信号の強弱に応じて濃淡の差を つけて体内を描出しています。

 

それぞれの特徴を表にまとめました。

 

CT

MRI

原理

放射線(X線)を利用

磁場と電波を利用

時間

検査時間が比較的短い

(約10分程度)

検査時間が比較的長い

20分~1時間程度)

長所

・空間分解能に優れる  (細かなものまで見える)

 

・広範囲を短時間で撮影できる

 

・騒音、閉塞感が少ない

 

・骨、肺の内部構造の描出が良好

 

・体内に金属が入っていても撮影できる

  (ただし、ペースメーカ・ICDは機種によって撮影できません。)

・組織分解能に優れる  (組織や病変とのコントラストが明瞭)

 

・放射線による被ばくがない

 

・軟部組織構造の描出に優れている(筋、靱帯、半月板など)

・骨によるアーチファクトが少ない

 

・造影剤を使用せずに血管の走行を描出できる

短所

・放射線による被ばくがある

 

MRIに比べて軟部組織の変化がわかりにくい

 

・骨に囲まれている部位はアーチファクト(画像の乱れ)が出やすい

・装置が狭い  (閉所恐怖症の方の中には耐えられない人もいる)

・騒音が発生する

 

・動きに弱い

 

・骨などの石灰化病変の精査がしづらいことがある

 

・磁気に反応する金属が体内にある場合、検査できないことがある

 

CTとMRI をどう使い分けているの?

MRIの長所は「組織分解能」が高いことです。骨の影響を受けにくく、病変と正常組織の差がわかりやすく描出され、造影剤を用いなくても血管を写すことができます。

 

一方、CTは骨による影響を受けますが、広範囲の検査を短時間で行え、1mm以下の微小な病変も描出することが可能です。

空間分解能が非常に高いため、広い範囲を短時間で撮影でき、緊急時の検査・スクリーニングに適しています。

細かく小さな病変も検出でき、なおかつ、短時間の撮影で検査が終了するため、装置1台あたりの検査件数もMRIより多く、MRIよりも検査の予約が取りやすいこともあって、CT検査は画像診断の重要な位置を占めています。

 

CTとMRIにはそれぞれに得意なところと不得意なところがあり、各検査を使い分け、時には他の検査と複合的に組み合わせ、補完し合うことにより診断やスクリーニングを行っています。

実際に臓器ごとで見ても、肺や気管などは空気を多く含むため、MRIでの評価は困難であり、呼吸器領域ではCTでの評価が中心となります。

 

また、整形外科領域では粗大な骨折はCTでも検出可能ですが、靱帯や半月板・椎間板や軟骨・筋肉の炎症や損傷、骨挫傷や不全骨折などはMRIでなければ描出できない事が多く、スポーツ外傷や加齢に伴う慢性疾患ではMRIでの評価が主体となります。

子宮・卵巣や前立腺・精巣などの生殖器領域もCTでの評価が難しく、こちらもMRIが中心となります。

 

MRIの得意分野

CTの得意分野

早期脳梗塞

脳・頭蓋内の出血

スポーツ外傷・

加齢に伴う慢性疾患

肺癌や肺炎

脳動脈瘤

尿路結石

軟骨

呼吸器(肺・気管)

靭帯・半月版

全身の緊急検査

(短時間で撮影できる)

神経

腸炎や腸閉塞など

骨腫瘍病変

子宮・卵巣

前立腺・膀胱

 

複数の検査を受けていただく理由

健康診断でも、病院の外来受診の際の検査でも、複数の検査をお願いすることが少なくありません。

時々患者さんから、「MRI検査をしたのに、CT検査も受けないといけないのですか?」という相談を受けることがあります。

 

どの検査も単独で評価するには限界があり、病気ごと・臓器ごとに行うべき検査が異なるため、MRIだけでは得られない情報も、CT検査だけでは得られない情報も数多く存在します。それぞれの検査を複合的に組み合わせて、情報を相互に補完し合い、総合的に病気を診断し、病気の有無のスクリーニングをしています。

 

検査を進めるには、患者さんのご理解と同意が必須です。

患者さんが納得されていない場合は、検査を行いません。

もし、検査目的・内容に関する質問や不安がある場合は、医師や医療スタッフに遠慮なく相談してみてください。

 (放射線科 大竹優太)

C型肝炎とは?

C型肝炎とは?

 C型肝炎とはC型肝炎ウィルスの感染により肝臓に炎症が生じる疾患です。炎症によって肝臓の細胞が壊され、肝臓の機能が低下していきます。
 C型肝炎ウィルスは、C型肝炎ウィルスのチェックができなかった過去の輸血や血液製剤、刺青などにより感染します。
 前回『ウィルス性肝炎とは?』のなかで急性肝炎の症状について記載しましたが、C型肝炎ウィルスは、感染しても重症化せず、急性肝炎としての自覚症状がない場合もあります。劇症化は稀です。
 感染予防のためのワクチンはありません。

 C型肝炎ウィルスに感染すると?

 肝炎ウィルスに感染して肝臓で増えたウィルスが血液中に持続的に出ている人のことを、肝炎ウィルスキャリア(ウィルス保持者)とよびます。現在、C型肝炎ウィルスキャリアは全世界で 17,000万人、わが国で100万~150万人存在すると推定されています。
 C型肝炎ウィルスに感染すると、約30%では急性の経過でC型肝炎ウィルスが排除されます。約70%はキャリアになり、慢性肝炎へと移行します。慢性化した場合、C型肝炎ウィルスの自然排除はまれであり、感染による炎症が続いたまま治療せずに放置すると、肝硬変に至ったり、肝細胞がんを発症することがあります。

 C型肝炎ウィルスの治療について
 
 ウィルスの完全な排除が治療の目標となります。
 近年、C型肝炎ウィルスに対する治療薬は急速に進歩しています。
 以前は、インターフェロンという注射薬が主な治療薬でしたが、近年、飲み薬(直接作動型抗ウィルス薬)によってウィルスを90%以上排除できるといわれています。
 肝炎の進展度やウィルスの性質により治療薬が異なるため、肝臓を専門とする医師の指導のもと正しい治療を選択することが重要です。検査や治療に対しては医療費の助成も受けられるようになっています。
 なお、抗ウィルス薬を使用しない(できない)場合には、肝庇護薬や注射薬を用いることもあります。 

おわりに

 抗ウィルス薬によって体内からC型肝炎ウィルスがいなくなっても、これまで悪くなってきた慢性肝炎や肝硬変などの肝臓病そのものが完治したわけでは決してありません。肝臓病そのものの経過観察を継続することが、重要です。とくに肝臓病が進行してしまった方は、肝細胞がん合併の危険性が引き続き残っていると考え、定期的な採血および超音波検査やCTMRI検査などの画像検査を受けることが重要です。

<参考文献>
C型肝炎治療ガイドライン(第8版)2020年7月
(西川 尚子)

心房細動

心房細動は我が国では71.6 万人が罹患していると推定されている不整脈です。心房細動の有病率は,年齢が進むにつれて上昇することから、高齢化にともない、年々増加傾向しています。2050年には心房細動患者は約103万人,総人口の約 1.1% を占めると予測されています1。心房細動は脳梗塞、心筋梗塞、心不全および死亡などの心血管疾患発症リスクと関連しています。心房細動により心臓内に血栓が形成されることで、脳梗塞や心筋梗塞が発症しやすくなります。それ以外にも、心房細動が長期に持続することで、弁膜症や心不全発症のリスクが高まることが分かっています。

心房細動は動悸・息切れ・疲れやすさなどの症状がみられることがありますが、約7割の方が無症状であるといわれており、これが心房細動の診断が困難となる理由となっています。このため、残念ながら、30~50%の方が脳梗塞発症してから心房細動が診断されています。心房細動は適切に診断され、早期に血栓をできにくくする抗凝固療法や心房細動を止める治療を行うことができれば、脳梗塞や心不全発症リスクを減少させ、死亡率も減少させることができます。そのため、早期に無症状のうちから心房細動を見つける試みが行われてきました。

無症状の心房細動(以下、無症候性心房細動)は、長時間心電図を計測すればするほど、診断率が高くなることが分かっています。最近では心房細動の診断率を上げるために様々な医療機器が開発されて実用化されています。例えば、植込み型心臓モニターは小型の機械(約5cm×6-7mm 厚み7mm程度)で、胸の皮下組織に直接植え込み、24時間心電図を記録することができます。外来で10分ほどの所要時間で植え込みを行うことができ、手術翌日には入浴も可能です。電池寿命は約3年で、長く記録すればするほど、診断率が向上します。また、遠隔モニタリング機能がついており、自宅にいる間にも遠隔で不整脈の検出をすることができ、不整脈の診断率が向上に寄与しています。

しかし、このような医療機器ではなく、患者さん自身である程度の不整脈を知ることができます。一番簡易な方法は、自分で脈を測る(検脈)ことです。手首の親指側に橈骨動脈という太い動脈が流れていて、そこを指で押さえると脈を触れることができます。脈をとるポイントはリズムが一定かどうか、1分間に脈拍がどのくらいかです。10秒間脈をとり、その数を6倍すれば1分間の脈拍数がわかります。1分間に120/分以上、または40/分未満でしたら、不整脈の疑いがありますので、お近くの医療機関を受診してください。

それ以外にも、体に負担をかけずに、一般の方が簡易に記録できる心電図デバイスが販売されています。その1例としてオムロン携帯型心電計オムロンヘルスケア)があります。気軽に心電図が測定できる反面、計測時間が短くなってしまうため、心房細動の検出頻度はそれほど高くありません(検出頻度1.1~3%2)。一方で体に張り付けるタイプのパッチ型心電図モニターは、胸に貼るだけで2週間の自動連続記録が可能です。心房細動の検出頻度は比較的高く(検出頻度4%3)、これを用いた検査が医療保険適応となっている機種も出ています。しかし、解析に医学的な専門知識が必要であり、わが国では、医療機関での使用に限定されています。

ユーザーが好きな特に脈拍や脈のリズムを測定できるように、スマートフォンやスマートウオッチも活用されています。スマートフォンのカメラやスマートウオッチの裏面についたセンサーで脈波を測定して脈拍の乱れを検出できるものや、アップルウオッチのように心電図が測定できる機能がついているスマートウオッチなどがあります。これらのほとんどが、ブルートゥースで自分のスマートフォンと接続して、専用のアプリを用いてデータを管理することができます。なかには、不整脈の有無について自動診断までできるものも登場しています。

心房細動は高齢になるほど発症率が高くなりますが、それ以外にも高血圧、心不全、糖尿病、睡眠呼吸障害、肥満を含むメタボリックシンドロームを有していている方、喫煙している方やアルコール摂取量が多い方は心房細動の発症率が高くなると報告されています。このため、生活習慣の是正や、適度な運動、体重管理は心房細動発症予防に有効です。すでに上記疾患をお持ちの方も、疾患のコントロールが心房細動発症の予防に有効です。

心房細動は早期の発見と治療が重要です。心房細動が疑われる自覚症状があったり、自分で脈を調べておかしいと感じたりした場合は早めに医療機関を受診して心電図検査を受けてください。また、現在症状がない方も心房細動の早期発見につながる心電図検査を受けるよい機会にもなりますので、定期的な検診の受診をお勧めします。

  1. 2020 年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン JCS/JHRS 2020 (https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf)
  2. Svennberg E, Engdahl J, Al-Khalili F, Friberg L, Frykman V, Rosenqvist M. Mass Screening for Untreated Atrial Fibrillation. Circulation 2015;131:2176-2184.
  3. Steinhubl SR, Waalen J, Edwards AM et al. Effect of a Home-Based Wearable Continuous ECG Monitoring Patch on Detection of Undiagnosed Atrial Fibrillation: The mSToPS Randomized Clinical Trial. Jama 2018;320:146-155.

(予防医学センター/循環器内科 荷見 映理子)

植え込み型心電計

検脈の方法(出典:心房細動ウエブサイト)

左:オムロン携帯心電計、中央:パッチ型心電計(フクダ電子 eMEMO)、右:心電図が計測できるスマートウオッチ

自己免疫性胃炎とは?

 上部消化管内視鏡検査にて、萎縮性胃炎を指摘されたことのある方は比較的多くいらっしゃると思います。萎縮性胃炎というと、Helicobacter pylori(ピロリ菌)感染によるものを思い浮かべますが、自己免疫性胃炎も萎縮性胃炎の原因の一つになります。かつては欧米に多く日本は少ないと考えられてきましたが、近年、日本においても徐々に増加してきており、現在は、人種差はなく、男性よりも女性の頻度がやや高いとされています。
 
 自己免疫性胃炎は、抗胃壁細胞抗体や抗内因子抗体などの自己抗体(本来は細菌などに対して免疫を司る体の中の抗体が、自分自身を誤って攻撃してしまうもの)が関与しており、自己免疫機序(異物を認識し排除するための役割をもつ免疫系が、自分自身の細胞や組織に対して反応し攻撃を加えてしまう現象)により胃粘膜の萎縮(胃の粘膜に炎症が起こることで、胃液や胃酸などを分泌する組織が縮小し、胃の粘膜が薄くなる状態)を引き起こしてきます。典型例では、胃の真ん中の体部を中心とした萎縮性胃炎で、胃の出口付近の前庭部には萎縮を認めないか軽度であり、Helicobacter pylori感染による胃前庭部を中心として胃体部に拡がる萎縮性胃炎とは内視鏡像が異なります。

 自覚症状は乏しく、長期にわたり無症状のまま徐々に進行していきます。進行後に出現する自覚症状も非特異的であることが多いですが、進行すると胃酸分泌低下による鉄欠乏や、内因子低下によるビタミンB12欠乏の状態となり、貧血を認めるようになります。また、胃壁細胞の破壊により高ガストリン血症をきたしてくるため、胃癌や胃神経内分泌腫瘍(neuroendocrine cell tumor)の合併率が高くなってきます。さらに、甲状腺疾患や1型糖尿病など胃外の自己免疫性疾患(免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう疾患)の合併や、他部位の悪性腫瘍の発生率が高いとも言われており、単なる胃の疾患ではなく、全身性の疾患としてとらえて精査していく必要あります。

 日本では、Helicobacter pylori感染による萎縮性胃炎の頻度が高く、並存している場合も多いため、病態が複雑になり診断がつきにくいとされており、確定診断には上部消化管内視鏡検査や病理診断、血液検査も含め総合的に診断をしていきます。自己免疫性胃炎のみによって萎縮が進んだ場合、尿素呼気試験(Helicobacter pyloriに感染しているかを調べる検査の一つ)が陽性(偽陽性)になることがあり、繰り返しHelicobacter pylori除菌を行われている場合があります。また、血中Helicobacter pylori抗体陰性かつペプシノゲンI値とペプシノゲン I/ ペプシノゲンII比が低下した場合(胃がんリスク層別化検診D群)、Helicobacter pylori感染によって萎縮が進行し自然除菌(除菌治療を行っていなくても、Helicobacter pyloriが自然に消失すること)されたと解釈されることが多いですが、その中には自己免疫性胃炎が含まれている可能性があります。

 早期発見、早期治療を行うためにも、少なくとも1年に1度の定期的な上部内視鏡検査を行うことをお勧めします。

(新美 惠子)

胃前庭部

胃体部:胃前庭部の萎縮が軽度であるのに対し、胃体部の萎縮は高度であり、逆萎縮を示しています。

認知症予防のためにできること

人口の高齢化に伴い、日本では 2012年時点で約462万人(65歳以上高齢者の約15%)が認知症に罹患しており、その数は今後さらに増加すると予測されています。2025年には認知症患者は約700万にものぼると推定されており、ますます身近な病気となってくると思われます。

認知症発症の最も大きな要因は加齢ですが、そのほかにも、糖尿病、高血圧など、認知症の原因となるいくつかの要因がわかってきています。

2019年、WHO(世界保健機関)から、『認知機能低下および認知症のリスク低減』のためのガイドラインが公表されました。

認知症に対して根本的な治療は現在のところありませんが、ガイドラインで紹介されているような危険因子を管理することによって、認知症の発症や進行を予防できる可能性が示唆されています。

 

WHOガイドラインで示された12の要因は、下記の通りです  
 
 1.身体活動による介入
 2.禁煙による介入
 3.栄養的介入
   4.アルコール使用障害への介入
   5.認知的介入 
   6.社会活動
   7.体重管理
   8.高血圧の管理
   9.糖尿病の管理
10.脂質異常症の管理
11.うつ病への対応
12.難聴の管理

禁煙や、アルコール摂取量の適切な管理、体重のコントロールや高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理は、他の生活習慣病予防とともに、認知症予防の観点においても重要です。

 

〇身体活動

身体活動(主に有酸素運動)は、健康成人や軽度認知障害の成人において、認知機能低下のリスクを低減するために推奨されています。

具体的には、65歳以上の成人について、週150分の中強度有酸素運動、週75分の高度有酸素能動、または同等の中から高強度の組み合わせた身体活動を行うこと、また有酸素運動は1回につき少なくとも10分以上続けること、筋力トレーニングは週2回以上、主要な筋肉群の使うトレーニングをすることなどが勧められています。

〇栄養的介入(食事)

地中海食やDASH食により、軽度認知障害やアルツハイマー病のリスクを低下させることができるという研究結果がでています。地中海食には、野菜・果物・豆やナッツ類・オリーブオイ

ルをよく使う、乳製品や肉よりも魚を多く使う、食事と一緒に適量の赤ワインを飲むという特徴があります。DASH食とは、高血圧患者のための食事療法のことであり、①野菜・果物・低脂肪の乳製品を十分摂る、②肉類および砂糖を減らす、のが基本となります。

また、日本人での研究結果では主食に偏らず主菜や副菜をしっかりととるバランスのよい食事が認知症の発症リスク軽減につながると報告されています。

一方、ビタミンBE、不飽和脂肪酸などのサプリメントの摂取は、認知症のリスクを下げる効果が確かめられていないため、推奨されていません。

〇難聴の管理

難聴は加齢とともによく起こる障害であり、65歳以上の成人の3分の1は難聴があると推定されています。難聴があると認知症のリスクが約2倍になると示されており、各リスク因子のなかで、最も認知症発症への影響の大きい要因となっています。

難聴があるとコミュニケーションをとることが難しくなることから、ひととの会話を避けるようになるなど、社会活動を妨げる要因ともなり、孤立感を強めてしまうことになります。

そのため、高齢者においては難聴を適切に発見し、治療することが大事です。定期的な検診で聴力をチェックし、低下のある場合には耳鼻科で詳しい検査を行い、適応のある場合には補聴器を使用するのがいいでしょう。

また、若い頃から、大音量で音楽などを聞くことにより起こる音響性難聴にならないように注意することも重要です。イヤホンを使用する際には最大音量の60%以下にし、適宜休憩をとって耳を休ませることを心がけましょう。

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このように、普段の運動・食事や生活習慣病等に気を付けることによって、認知症を予防できることがわかってきています。若年・壮年の方でも、健やかに活躍できる老年期を迎えるために、いまこの時点から心がけることが大切かと思います。

また、現時点で少しでも気になる症状がある場合には、物忘れ検診の受診をお勧めします。

当センターの物忘れ検診では、タッチパネル式コンピューターを使って、現在の認知機能評価を受けることができます。対面式ではなく、コンピューターの自動音声に従い質問に答える形式ですので、お気軽に受けていただくことが可能です。詳しくは、予防医学センターの受付にお問合せください。

参考:

・WHO guidelines of risk reduction of cognitive decline and dementia, 2019
・認知機能低下および認知症のリスク低減 WHOガイドライン
・日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業)
・WHO Tips for safe listening-Make Listening Safe, 2017

(松本ルミネ)

機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia:FD)

 機能性ディスペプシア(Functional DyspepsiaFD、エフ・ディー)は、比較的、最近になって概念が確立してきた疾患です。厳密な定義が医学の世界ではありますが、分かりやすく言うと、「様々な胃の症状が長期間続くのに内視鏡検査では異常を認めない病気」です。機能性ディスペプシアは臨床現場では「慢性胃炎」と診断されることが多く、様々な胃薬が処方されますが、治療の効果が決して高くないことも特徴の一つです。実際には右の一覧に示すような様々な症状が知られており、様々な治療法を行ったとしても、コントロールに難渋することがしばしばです。この病気は命に関わる可能性はなく、また、内視鏡検査で異常が見つからないため、以前は軽視される傾向がありました。しかし、機能性ディスペプシアの患者は成人の15%程度いる可能性が報告されており、非常に頻度が高いことに加えて、患者のQOL(生活の質)を低下させることが明らかとなってきたため、現在ではしっかりとした医学的対応をするべき疾患と考えられるようになっています。

 医学における治療では「その病気が起きた原因」を確認し、その対処を行うのが原則ですが、機能性ディスペプシアの場合、なぜ、そうした症状が起きるのか、そのメカニズムも十分には分かっていません。機能性ディスペプシアを引き起こす可能性のある要因の一覧を右に挙げていますが、これだけ様々な原因で引き起こされる病気の対応は容易ではなく、実際、機能性ディスペプシアは多くの疾患・病態が混ざり合っている可能性が指摘されています。患者によって対応も様々であり、薬物療法のみならず、生活習慣の是正やストレスの軽減、医師と患者の信頼関係の構築も含めた、総合的な医学的対応が必要と考えられています。ただ、現在は、アコチアミド六君子湯などの有効性の高い薬剤が出てきていますし、この病気は寿命を縮めることはなくても、QOLの維持のためにも対応が必要な疾患です。内視鏡検査では異常なしと言われたのに、胃もたれやお腹の張り感などが続くなどで「機能性ディスペプシアかもしれない」と思った場合には、一度、専門医に相談されることをお勧めします。

(山道信毅)

「コロナ太り」、気になりませんか?

(3月4日は何の日でしょうか?)
 
最近、人間ドックをお受けになる皆様や、外来診察にいらっしゃる患者さん方から、「コロナ太りで困っています」というご相談を受ける機会が増えました。新型コロナ肺炎の感染対策として人混みを避け、家で過ごすため運動量が減ったり、ストレスからお菓子をたくさん食べてしまったり・・・体重増加にお悩みの方は多いと思います。

 そこで今回のコラムでは、肥満について取り上げることにいたしました。図1をご覧ください。世界で肥満は年々増え続け、深刻な問題となっています。そこでWHO (世界保健機関)は、肥満症の予防や治療の重要性を呼びかけ、34日を世界肥満デーと定めました(図2)。

 最近10年の日本の状況もお示しします。BMIBMIは後で説明します)が25以上ある方を「肥満者」と定義しますが、男性の約3割、女性の約2割以上が肥満に該当し(図3)、幅広い年代層にみられます(図4)。これは新型コロナ肺炎流行前のデータですので、もしかしたら最近はもっと多くの方が肥満に該当するかもしれません。

(肥満かどうかを調べるには?)
 
体の中に脂肪が蓄積した状態を、肥満といいます。健康番組などで、「内臓脂肪」という言葉をお聞きになったことはありますか?肥満症は、内臓脂肪が必要以上に体にたまってしまい、様々な病気を引き起こす病態のことです。
 
 ご自分に内臓脂肪がどのくらいあるか、気になりませんか?CTMRIなどの画像検査を受けていただくことで、「内臓脂肪面積」を測ることが出来ます。しかし、CTMRI検査は、被ばくや費用などのハードルがあり、すぐに受けられる検査ではありません。
 
 そこで簡単な検査として、身長と体重を測って、BMIを計算する方法があります。BMIは、Body Mass Indexの略で、[体重(kg)]÷[身長(m)2]で計算し、25以上を肥満と定義します。例えば、身長168㎝、体重87㎏の方は、87/1.68/1.68=30.8BMIとなり、肥満の診断となります。他に、ウエスト周囲長(腹囲)も測定なさることをお勧めします。腹囲は、男性85㎝、女性90㎝以上で、「内臓脂肪がたまっている」と推定することが出来ます。

(肥満はどういう病気でしょうか?)
 肥満は、今すぐに病的な問題を生じる病態ではありませんが、様々な病気を引き起こしてしまいます。では、どのような病気を思い浮かべますか?例えば、体重が増えて膝や腰の痛みがつらくなったご経験をお持ちの方は多いと思います。「太ったから仕方がない」とあきらめるのではなく、肥満のせいで起きている病気であると認識し、しっかりした治療を受けることが大切です。
 
 何より恐ろしいのは、自覚症状が出にくい病気にもかかりやすくなります。糖尿病(耐糖能異常)や脂質異常症、高血圧は、肥満が原因となり発症する病気の代表です(これらの病気は、以前にこの健康コラムで取り上げていますので、あわせてお読みください)。こうした病気は、狭心症や心筋梗塞、脳卒中といった命取りになる病気も引き起こします。他に、高尿酸血症(痛風)や脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群に加え、月経の異常や、腎臓病なども、肥満が引き金となって発症することをご存知でしたか?
 
 最近では、肥満が新型コロナ肺炎のリスクであり、肺炎が重症化しやすいことも分かってきました。図5をご覧ください。もともと様々な病気を抱えている肥満の方は、臓器が弱った状態にあります。ウイルス感染により、さらに臓器にダメージを与えてしまい、重症化しやすいと考えられています。つまり、新型コロナウイルスから生き延びるためにも、肥満の治療が必要になります。

(肥満の治療はどうすればよいのでしょうか?)  
 肥満症の治療は、体重の減量をすることが重要です。いわゆるダイエットに取り組んでいただきます。食事療法と運動療法が基本ですが、時に薬物治療や、外科的な手術を受ける方法もあります。ただし、持病を治療中の方や、ご年配の方やお子さん、妊娠中の方などは、必ず(通院中の)医療機関にご相談ください。自己流のダイエットは危険で、リバウンドしてしまったり、病気が悪化したりすることもあります。
 
 なお東大病院では、糖尿病・代謝内科において肥満症に対する積極的な治療を行っており、外来診療に加え、減量入院にも取り組んでいます。安全で効果的な減量を心がけており、11人の患者さんに最適な減量方法を一緒に見つけていくため、外科や心療内科など他の専門科と協力したり、看護師、栄養師、理学療法士など複数の専門職が協力し合って、減量のお手伝いをしています。詳しくは、東大病院糖尿病・代謝内科のホームページもご参照ください(内容は適宜更新されます)。
 
 また、頻度は少ないですが、肥満には「二次性肥満」といって、ホルモンのバランス異常や薬の副作用など、他の病気が原因で肥満になる場合もあります。この場合は、原因となる病気の治療が必要です。そのため、肥満や体重増加にお悩みの際は、お気軽に医療機関にご相談ください。皆様のご不安を、少しでも解決していけるように私達も頑張ってまいります。                                              

                   (文責 升田 紫)





3月4日は何の日でしょうか~世界における肥満~

日本における肥満の推移

日本における肥満の割合

肥満は新型コロナ肺炎の重症化リスク

血圧治療の目標値が変わりました

高血圧は日本で患者数が最も多い病気で、約4300万人の患者さんがいると推計されています。ほとんどの人で自覚症状がないにもかかわらず、動脈硬化を起こし脳血管障害や心疾患のリスクを高めたり、腎機能が低下する原因にもなる、侮れない病気です。高血圧を正しく理解して、予防のためにライフスタイルを改善したり、適切な治療を受けることが重要です。

高血圧の診療方針をまとめた“高血圧治療ガイドライン”が2019年に改訂されましたのでご紹介します。2014年のガイドラインから「診察室血圧と家庭血圧の値に差がある場合には、家庭血圧による診断を優先する」と、家庭血圧が重視される内容となっており、それは今回も同様です。高血圧の基準が診察室血圧で収縮期140mmHg以上、拡張期90mmHg以上であることも変わりありません。改訂版での最も大きなポイントは、降圧目標がより厳しくなった点です。75歳未満の成人は、診察室血圧で130/80mmHg未満を目指すことになりました。家庭血圧はさらに5Hg低い125/75mmHg未満が目標です。(1)

家庭血圧がこの目標を越える日が多いようであれば、まずは食生活や生活習慣を見直しましょう。減塩、適正体重の維持、節酒、定期的な有酸素運動、禁煙が大切です。

<生活習慣の見直しについて>

減塩

食塩摂取量16g未満

肥満の改善

体格指数(BMI) 25.0kg/m2未満

節酒

アルコール量で男性2030mL/日以下(おおよそ日本酒1合、ビール中瓶1)、女性1020mL/日以下

運動

毎日30分以上または週180分以上の有酸素運動

食事

野菜や果物*、多価不飽和脂肪酸を積極的に摂取

(*糖尿病や腎機能障害がある場合は主治医に相談が必要)

禁煙

喫煙のほか受動喫煙も避ける

 

生活習慣を見直しても血圧が目標まで下がらない場合には、降圧薬による治療を検討することになります。降圧薬には多くの種類があり、その方の全身状態や合併している病気の有無を考慮しながら、適切な薬を決めていきます。血圧をより厳格に下げたほうがよい場合や、慎重に下げたほうがよい場合がありますので、かかりつけ医をつくりしっかりと相談しましょう。

また、“降圧薬は一生飲み続けなければいけないか”というご質問を受けることがあります。たしかに多くの方は内服を継続して血圧をコントロールしますが、少なからず薬をやめる(もしくは減量する)ことができる方もいらっしゃいます。そのためにはやはり生活習慣の見直しが非常に重要となりますので、ぜひ上の表をご参考にしていただき、取り組んでみてください。

(大関 敦子)

(図1) 降圧目標

脂質異常症

(脂質異常症はどのような病気でしょうか?)

 脂質異常症は、血液中のコレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)が、基準値をはずれてしまう状態です。コレステロールは、いわゆる「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールと、「善玉」と呼ばれるHDLコレステロールに大別されます。LDLコレステロールや中性脂肪が増えてしまったり、HDLコレステロールが減ってしまったりする状態が続くと、動脈硬化が起こります。

 動脈硬化とは、血液が流れる大事な血管である動脈が硬くなり、狭くなるなどして、血液の流れが悪くなる病態のことを言います。その結果、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などを引き起こし、命を失う危険があります。

 なお、以前は「高脂血症」という病名がよく知られていました。「悪玉」であるLDLコレステロールや中性脂肪が「高くなる」病気として認識されていたからです。しかし様々な研究の結果、「善玉」であるHDLコレステロールが「低くなる」ことも動脈硬化のリスクであることが分かってきましたので、「脂質異常症」という呼び名が広まっています。悪玉が多いことだけではなく、善玉が低いことにも注意が必要ということを覚えていただきたいと思います。

 

(どうして治療が必要なのでしょうか?)

 上に書きましたように、脂質異常が起きると、動脈硬化が進行し、脳や心臓をはじめとする全身の血管が硬くなるなどし、致命的な病気を起こしてしまうからです。図1をご覧ください。医療は年々進歩しているとはいえ、平成30年の統計を見ても、脳血管の病気や心臓の病気で命を落とす方がたくさんおられます。

 図2のように、命を落とさないまでも、介護が必要となった主な病気の原因として、脳血管の病気や心臓の病気の割合も大変多いことが分かります。

 やっかいなことに、脂質異常症は、目立った自覚症状がありません。そのため、致命的な病気が起きて初めて、自分が脂質異常症を持っていたことに気が付く方も少なくありません。自覚症状がなくても、健康診断や人間ドックなどで、血液検査を受けていただくことが早期診断につながります。

 

(どのように診断をつけるのでしょうか?)

 図3をご覧ください。脂質異常症の診断をつけるためには、血液検査を受けていただき、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)、Non HDLコレステロールを評価する必要があります。基本的に、健康診断や人間ドックをお受けになる場合、空腹時に血液検査を受けることが多いと思います。そのため、図3は空腹時を基準とした値です。

 中性脂肪について補足します。中性脂肪は、空腹時の値が150mg/dl以上で高中性脂肪血症という診断がつきます。しかし、空腹時の中性脂肪の値が正常範囲であっても、食後(非空腹時)に中性脂肪が高くなる方もいらっしゃいますので、注意が必要です。非空腹時の中性脂肪が高いほど、脳血管の病気や心臓の病気が増えるという報告もあります。そのため、少しでも多くの方がスクリーニングを受けていただけるように、空腹時のみならず、非空腹時の中性脂肪のスクリーニング基準値を決めることも提唱されています。

 

(どのような治療があるのでしょうか?)

 脂質異常症の治療として、まずは生活習慣の改善が大事です。主に、食事療法、運動療法に加え、禁煙や、肥満の改善が重要とされています。生活習慣を改善しても、血液検査で脂質の値が管理目標値に達しない場合は、お薬での治療も必要となります。ただし、脂質異常症にはいくつかの原因があります。中には、生活習慣と関係なく、遺伝的に(体質的に)脂質異常症を来たす方もいらっしゃいます。

 治療を行う際、脂質の管理目標値は、年齢や性別、家族歴、他の病気の有無などによって、1人1人異なります。そのため、ご自分の判断のみで、食事を制限したり、運動を開始したりするのは大変危険です。インターネットなどの情報をもとに、ご自分だけで対応しようとすることは、どうかお止めください。どの病気も同様ですが、お1人で抱え込まないようにしていただきたいと思います。
 脂質異常症と言われたら、まずは、お気軽に医療機関へご相談ください。脂質異常症は、1人1人の生活習慣、他の持病の有無などを総合的にとらえた上で診断に結び付け、1人1人に応じた治療を行う必要があります。

 

 忘れないでいただきたいこととして、動脈硬化を防ぐためには、脂質異常症以外にも気を付けなくてはいけない病気があります。例えば、肥満、高血圧、高血糖(糖尿病)はよく知られていますし、高尿酸血症や、腎臓の病気、喫煙習慣をお持ちの方なども注意が必要です。

 つらい症状がなくても(症状がないからこそ)、健康診断や人間ドックで、ご自分に脂質異常症がないかどうか、お調べください。脂質異常症と言われたら、決して放置せず、医療機関にご相談ください。適切な治療を受けていただくことによって、少しでも皆様の健康寿命を長く伸ばせるように、私達も頑張ってまいりたいと思います。

 (文責 升田 紫)

慢性咳嗽について

  • 咳嗽の持続期間からの分類

咳嗽は、その持続期間から3週間未満の急性咳嗽、3週間から8週間未満の遷延性咳嗽、8週間以上の慢性咳嗽に分類されます。急性咳嗽は、気道の感染症もしくは感染後咳嗽(感染後に長引く咳嗽)が多くを占めますが、持続期間が長い咳嗽、特に慢性咳嗽においては感染症が原因である頻度は低下します。

気道感染症は、咳嗽の他に、発熱、倦怠感、咽頭痛等の併存症状が多くの場合あります。通常の細菌性感染症、ウイルス感染症が8週間以上持続する慢性咳嗽の原因となる事は稀です。感染を疑う症状を伴った慢性咳嗽は、肺結核、非結核性抗酸症といった抗酸菌やアスペルギルス等の真菌による感染症(真菌は肺や全身に基礎疾患がある方が感染が多い)等が原因となります。

当予防医学センター人間ドックでは、特にCovid-19感染症の情勢から、徹底した検温、問診を行っており即治療を必要とする気道感染症を疑う症状、病歴のある方は受診をされません。そのような中でも慢性咳嗽の症状で、お悩みの方は稀ではありません。

 

今回、以下に慢性咳嗽について概述致します。

 

  • 慢性咳嗽の疫学及び原因疾患

わが国の一般人口における咳嗽の罹患率は約 10% で、さらに 8 週間以上持続する慢性咳 嗽の罹患率は 2% とされています。本邦及び欧米では頻度に差がありますが、図1(咳嗽に関するガイドライン第2版より引用)が慢性咳嗽の原因疾患の頻度の報告になります。咳喘息/喘息、アトピー咳嗽が多く、また後鼻漏/鼻副鼻腔炎、逆流性食道炎の頻度が多く、これらを中心に念頭に置く必要があります。

 

  • 慢性疾患の原因疾患の鑑別のために

2が慢性咳嗽の各原因疾患に特徴的な病歴になります。

喫煙やある内服薬(ACE阻害薬:高血圧症の薬として使用されます)といった明確な原因があれば、それらを除去する必要があります。

図2に記載された内容を含め、各疾患に特徴的な病歴が無いか聴取が重要になり、また胸の聴診で特に喘息特有の呼吸の副雑音の聴取の有無に留意します。(気管支喘息の診断は、病歴や特徴的な聴診所見の確認が非常に重要になります)

人間ドックで行われる検査においては、胸部レントゲンや胸部CTは慢性の感染症や副鼻腔気管支症候群の診断の契機となる事もありますし、上部消化管内視鏡検査で逆流性食道炎の有無や程度の判別が可能です。

  • 慢性咳嗽の治療

実臨床では、診断的治療が行われる事が多いです。慢性咳嗽は病歴と可能な範囲で行われる検査から疑い診断(治療前診断)が付けられます。そこで、診断が確定するわけでなく疑った疾患に対する特異的治療が奏効して初めて診断が確定します(治療後診断)

3(咳嗽に関するガイドライン第2版より引用)が主な慢性咳嗽の原因疾患の特異的治療となります。特に咳喘息は、喘鳴や呼吸困難を伴わず咳嗽が唯一の症状であり、呼吸機能検査ほぼ正常、気道過敏性亢進、気管支拡張薬が有効で定義される喘息の亜型であり、病歴や諸検査により存在の推定は可能ですが、気管支拡張薬により症状が改善するかが診断のkeyとなります。

人間ドックを受診される方において慢性咳嗽に悩まれている方は、問診や検診における諸検査においても鑑別を絞る事も可能と考えられますので御相談下さい。

(松崎博崇)

 

図1(咳嗽に関するガイドライン第2版より引用)

図2(咳嗽に関するガイドライン第2版より引用)

図3(咳嗽に関するガイドライン第2版より引用)

過敏性腸症候群とは?

 過敏性腸症候群は、腸炎や腫瘍といった器質的疾患がないにも関わらず、腹痛、下痢や便秘といった便通異常が持続する状態をいいます。簡単に言うと、採血検査や内視鏡検査を行っても異常はないのに腹痛や便通異常が長期間続く状態の事です。
 およそ10%の人が過敏性腸症候群と言われており、消化器診療の中では多い疾患の1つです。女性に多く、また10~20代が高頻度で加齢とともに減少することが知られています。ただし、高齢者では再度頻度が上昇するとも言われています。
 過敏性腸症候群の発症原因については分かっていないことも多いのですが、ストレスや腸の知覚過敏、腸の異常な動き(蠕動異常)などが関与していると考えられています。ストレスを感じると、自律神経が乱れ、腸の蠕動異常につながり、腹痛や便通異常といった症状が出現します。また、腸の知覚過敏によって、普通であれば感じないようなわずかな蠕動異常に対して痛みを感じたり、わずかな腸管内のガスの貯留に対しても、おなかが張った感じがするなどの不快感を覚えるようになります。
 ストレスや緊張を感じやすい状況下、例えば社会人であれば出社時や勤務中、会議中など、学生であれば、登校中、授業中、試験中などに症状が出やすく、その一方で、睡眠時や休日などストレスを感じにくい時にはあまり症状が出ません。
 真面目で几帳面な性格の方、また緊張しやすい方に多いとされています。命に関わる病気ではありませんが、日常生活の支障となり、生活の質(Quality of Life)を低下させます。まさにストレス社会特有の現代病と言っても過言ではありません。

<診断について>
 実際の診療における過敏性腸症候群の診断は特徴的な症状と主要な器質的な疾患の鑑別により行っていきます。主要な器質的疾患(主に大腸がんと潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患など)を除外することは特に重要です。このため、診断に際しては採血検査や大腸内視鏡検査などが必須となります。

<治療について>
1.食事・運動
 以下に気を付けた食事・運動が推奨されています。
(1)規則的な食事をする。
(2)水分を十分とる。
(3)食物繊維は多く摂る。
(4)脂質、カフェイン、香辛料を多く含む食品、乳製品を控える。
(5)適度な運動を行う。
2.薬物療法
 過敏性腸症候群に対する薬物療法は下痢や腹痛、便秘の諸症状に応じて図1のようなものがあります。実際の臨床では、図1にあるような薬剤を色々と試していきながら、それぞれの患者さんにあうように調整していきます。

<さいごに>
 過敏性腸症候群かな?と思い当たる症状がある場合には、一度消化器の専門医に相談されることをお勧めします。

<参考文献>
機能性消化管ガイドライン2020-過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版) 日本消化器病学会編

(予防医学センター / 消化器内科 深川一史)

図1 過敏性腸症候群の治療薬

「膵がんドック」はじめました

〇膵がんは難治がんの代表です

 膵臓はみぞおち(心窩部)の辺り、胃の後ろ側にある臓器です。消化液である膵液を分泌したり(外分泌)、血糖を下げるインスリンなどホルモンを分泌したりする(内分泌)働きをしています。    
 膵臓にできるがん(悪性腫瘍)が膵がんです。膵がんの治療は難しいと聞いたことがある方は多いと思いますが、膵がんと診断された患者さんが5年後に生きている割合(5年生存率)はわずか8.5%といわれています(図1)。これは全身の各臓器にできるがんの中で最も悪い数字です。膵がんは難治がんの代表なのです。
 膵がんにより亡くなる患者さんは年々増えており、2018年の統計では年間35,000人の患者さんが膵がんにより亡くなっています。これはがんによる死因の第4位となっています(図2)。

〇症状のないうちに「早期発見」を

 膵がんによる症状には、お腹や背中の痛み、体重減少、黄疸、食欲低下などがありますが、このような症状は病気が進んでからでないと現れてこないことが多いです。そのため、症状が出てから病院を受診して膵がんが見つかった場合、すでに手術ができないほどに病気が進行してしまっていることがほとんどです。症状をきっかけに発見された膵がんの患者さんは、無症状で偶然発見された膵がんの患者さんに比べて、残念ながら予後が悪いことが分かっています。
 膵がんに「早期がん」というものはありませんが、大きさが1cmを下回る時点で手術をすると、再発が少なく、予後が良好であることが知られています。したがって、症状が現れる前に、1cm以下の膵がんを「早期発見」することが重要といえます。

〇膵がんになりやすいのはどんな人?

次のような人は、膵がんになりやすいと言われています。
1.膵臓にのう胞があると言われた人 ・・・約10
2.家族性膵がん家系で、両親・兄妹・子供の中に膵がんの患者さんが
1
人いる人 ・・・約5
2
人いる人 ・・・約6
3
人以上いる人 ・・・約30
(家族性膵がん家系:親子・兄妹に2人以上の膵がんの患者さんがいる家系)
3.1年以内に糖尿病と診断された人 ・・・約6
(糖尿病の治療中に急に血糖コントロールが悪化した場合も膵がんの可能性があります)

その他の危険因子としては、慢性膵炎、肥満、喫煙、大量飲酒などが知られています。

〇膵がんを見つけるための検査は?

 膵がんを見つけるための検査として、一般的な人間ドックなどで行われているのは腹部超音波(エコー)検査です。お腹にゼリーを塗って、超音波探触子(プローブ)を当てて膵臓を観察します。しかしながら、膵臓は体の奥の方の深い場所にあるので観察が難しく、特に膵頭部や膵尾部といわれる部位は胃腸のガスの陰に隠れてしまい観察できないこともあります。
 膵がんの精密検査のために有効な検査としては、超音波内視鏡(EUS)検査や造影CT検査があります。特にEUSでは、小さな膵がんも詳細に観察することが可能で、穿刺針を用いて検体採取を行い、病理診断をつけることも可能です。しかしながら、これらの検査は、体への負担(侵襲)が大きくなるため、人間ドックなどで実施するには向いていません。
 東大病院予防医学センターでは、膵がんドックとして腹部MRI/MRCP検査を行うことにしました。腹部MRI検査では、強力な磁石を用いて体の様々な方向から見た断面写真(断層像)を撮影することができます(図3)。造影CT検査と違って被ばくや造影剤による副作用の心配がなく、体への負担が非常に少ないです。また、膵がんの早期の徴候である膵管(膵液の通り道)の狭窄や拡張、膵のう胞といった画像所見を鋭敏にとらえることのできるMRCPという撮影方法も同時に行うことができます(図4)。

〇膵がんを克服するために

 難治がんの代表である膵がんを克服するためには、様々なアプローチが必要です。当院では、小さな膵がんを見つけられるEUS検査を多数行っています。また外科では手術治療の、内科では抗がん剤治療の豊富な症例経験があります。さらに外科と内科が協力して手術前に抗がん剤治療を組み合わせる術前補助化学療法も積極的に行っています。
 膵がんドックで異常が認められた場合には、すみやかに消化器内科で精査を受けられます。早期に膵がんを発見し、それぞれの患者さんに最適な治療を提供し、膵がんを克服できるよう予防医学センターと協力して診療にあたってまいりたいと考えております。

消化器内科 水野 卓

図1 がんの5年生存率

図2 がんによる死亡者数

図3 膵がんのMRI写真

図4 膵がんのMRCP写真

ウィルス性肝炎とは?

はじめに~肝臓について

肝臓は、体内で最大の臓器で、生命を維持するための重要な働きを担っています。主要な働きは、大きく3つあります。食べ物に含まれる栄養素を身体で利用できる形につくり直す「代謝」、有害な物質を無毒化する「解毒」、体で不要になったものの「排泄」です。人が食べたものは、胃、小腸を通して消化され、栄養分として腸で吸収されます。この栄養分が肝臓の中に入っていきます。 肝臓の中に入った栄養分は肝細胞に取り込まれ細胞の中で体に必要な物質に変換(合成)され、また血液に乗って体の各所へ運ばれます。

 

肝炎とは?

肝炎とは何らかの原因により肝臓に炎症が生じる疾患です。炎症によって肝臓の細胞が壊され、肝臓の機能が低下していきます。

肝臓は再生する臓器と言われていますが、炎症が続いたまま治療せずに放置すると、肝硬変や肝がんなどさらに重い病気に進展することがあります。

肝炎の原因として、ウィルス性、アルコール性、自己免疫性、薬剤性などがあります。前述の非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease, NAFLD)も近年原因として注目されています。

肝炎の原因として最も多いものは肝炎ウィルスによるものであり、主にA,B,C,E型の4種類の肝炎ウィルスが知られています。

 

肝炎ウィルスに感染すると?

肝炎ウィルスに感染して肝臓で増えたウィルスが血液中に持続的に出ている人のことを、肝炎ウィルスキャリア(ウィルス保持者)とよびます。

現在わが国では、肝炎の検査を受けたことのない人が3-4割いることが明らかになってきており、B型肝炎キャリアは110~140万人、C型肝炎ウィルスキャリアは190~230万人と推定されています。

 

急性肝炎と慢性肝炎について

肝炎を臨床経過で分けると主に急性肝炎と慢性肝炎に分類されます。

急性肝炎とは短期的に肝細胞に炎症が起き、一時的に症状が悪化するものの、数ヵ月以内に治癒する疾患のことです。

急性肝炎では、主に発熱、全身倦怠感、黄疸などの症状を呈します。

自然経過で治癒することが多いのですが、まれに急性肝不全という重篤な経過をたどることがあります。肝炎ウィルスによる急性肝炎は、主にA型、B型、E型肝炎ウィルスが原因となります。

慢性肝炎とは慢性的に肝臓に炎症を生じる疾患です。通常6か月以上肝炎が続くと慢性肝炎と診断されます。

肝炎ウィルスによる慢性肝炎は、B型肝炎ウィルスとC型肝炎ウィルスによるものが多く、現在わが国のB型肝炎の患者さんは慢性肝炎が13万人、肝硬変および肝癌が4万人の計17万人、C型肝炎の患者さんは慢性肝炎が32万人、肝硬変および肝癌が16万人の計約47万人と推定されています。

治療については、現在飲み薬の治療が中心であり、検査や治療に対しては医療費の助成も受けられるようになっています。

 

おわりに

肝臓は「沈黙の臓器」ともいわれ、もしもウィルスに感染していても、自覚症状がないまま病気が進行する恐れがあります。これらを予防するため、早期発見、早期治療が重要です。

 

健診で肝臓の数値が正常範囲であっても、血液中に肝炎ウィルスがいることもあります。

採血検査の機会があれば、一度確認してみてはいかがでしょうか。
(西川 尚子)

失神とは?

失神とは一過性に脳の血流が低下することで、数秒から数分の間生じる意識消失のことで、通常は数分以内に意識は回復します。病院へ受診時には、意識は清明であることが多いのも特徴です。失神を1回でも経験した割合は19-39%と高く、若年者と高齢者に多くなっています。

 主な原因として自律神経調節の異常(神経調節性失神)、起立性低血圧(いわゆる立ちくらみ)、脳血管神経疾患、心臓疾患に分けられます。しかし、失神は診断が困難な場合が多く、40%程度は詳しい検査を行っても、原因が明らかにできないと報告されています。なかでも、心臓疾患が原因の失神の場合はときに重篤となるため、失神が生じた場合はすみやかな医療機関受診と、詳しい検査が強く勧められます。

 失神の中で最も頻度が多いものは、神経調節性失神であり、自律神経調節の障害が原因です。これは明らかな心臓の疾患がなくても、長時間の起立や運動、排尿排便、飲酒、脱水、疲労がきっかけとなって生じることがあります。比較的若年者に多く、失神の原因の12~31%を占めます。多くの場合失神発作は誘因を避けることで失神は生じなくなることが多いですが、繰り返す場合には検査や治療が必要となることがあります。

 心臓が原因の主としては①不整脈、②心臓の器質的異常、③その他(肺塞栓、急性大動脈解離、肺高血圧など)が挙げられます。心臓の器質的異常としては、急性心筋梗塞や狭心症、大動脈弁狭窄症などの心臓弁膜症、心筋の異常が生じる心筋症などがあり、重篤な疾患の合併が多くなっています。

 失神の診断に重要なのは失神を生じた際の患者さんの状況です。失神の前に何か症状があったのか、何をしている際に生じたのか(運動中か、座っている時か、など)、失神の最中にけいれんなどがみられたか、などの情報が診断にとても重要です。その後、心電図、24時間ホルター心電図、心臓超音波検査またはCTなどの画像検査を行い、心臓血管疾患の診断を行います。心疾患が原因であった場合は、心臓カテーテル検査(冠動脈造影、心臓電気生理検査など)を行うこともあります。

 不整脈による失神は、脈拍が極端に遅くなる徐脈や一時的に心臓が停止する不整脈により、脳虚血性症状が生じ、めまいや失神を伴います。一方で脈が非常に速くなる頻脈により血圧が低下することで失神を生じる場合は、重篤なケースは突然死に至ることもあります。このため、失神が不整脈によるものが疑われる場合は、できるだけ早い診断と治療が必要になります。治療は、徐脈性不整脈には恒久的ペースメーカー植込み、頻脈性不整脈には抗不整脈薬、カテーテルアブレーション、植込み型除細動器植込みが適応となる場合があります。 

 最近は、植込み型心電図計を胸の前面皮膚の下に植込み、長時間に渡り心電図をモニターすることで今まで原因が不明であった失神の診断ができるようになってきています。植込み型心電計は小型化しており、患者さんの負担も軽減され、日帰りで手術が受けられる施設が増えてきています。

 (東京大学医学部附属病院 予防医学センター・循環器内科 荷見 映理子)

子宮頸がんとは?

子宮下部を子宮頸部、子宮上部を子宮体部と呼び、それぞれの部位に生じるがんを子宮頸がん、子宮体がんといいます。子宮頸がんは子宮がんのうち、約7割程度を占めます。国内では、毎年約1万人の女性が子宮頸がんにかかり、約3000人が死亡しており、2000年以後、患者数も死亡率も増加しています。最近は20~30歳代の若い女性に増えてきており(図1)、20歳からの検診を推奨しています。

子宮頸がんの原因は?

子宮頸がんの多くは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が原因です。このウイルスは性交渉により子宮頸部に感染しますが、ありふれたウイルスでもあり、性交経験のある女性の過半数は、一生に一度は感染機会があるといわれています。ほとんどの場合、HPVに感染しても免疫の力でウイルスが自然に排除されます。しかしハイリスク型と呼ばれるHPVに感染し、自然治癒しない一部の人は、異形成とよばれる前がん病変を経て、数年以上をかけて子宮頸がんに進行します。

子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)とは?

ハイリスクHPVの感染を予防することにより子宮頸がんの発症を防ぐHPVワクチンが開発され、現在世界の70カ国以上において国のプログラムとして接種が行われています。現行のHPVワクチンにより子宮頸がんの60~70%を予防できると考えられており、WHOはその有効性と安全性を確認し、性交渉を経験する前の10歳代前半に接種をすることが推奨されています。これにより欧米先進国や日本においても、ワクチン接種によりHPV感染率や前がん病変の頻度が接種をしていない人に比べて減少することが報告されています。日本でもHPVワクチンは2009年12月に承認され、2013年4月より定期接種となっています。接種後に多様な症状が生じたとする報告により、2013年6月より自治体による積極的勧奨は差し控えられていますが、これらの原因がワクチンであるという科学的な証拠は示されておらず、厚生労働省専門部会においても因果関係は否定されています。HPVワクチンに関する詳細な情報に関しては、日本産科婦人科学会ホームページ内の『子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために』にて詳しく説明されておりますので、是非参照してください。

子宮頸がん検診ではどのようなことをする?

子宮頸部をブラシなどで擦って細胞を集め、顕微鏡でがん細胞や前がん病変の細胞を見つける細胞診検査を行います。この検査を子宮頸がん検診と呼びます。またHPVワクチンを接種しても、100%予防できるわけではないため、子宮頸がん検診をうけることは重要です。子宮頸がんの予防にはHPVワクチンによる一次予防がまず大切であり、次に、子宮頸がん検診で早期発見し、早期治療をうけること(二次予防)が大切です。特に症状がなくても、20歳を過ぎたら、2年に1回の子宮頸がんの検診を受けましょう。

(女性診療科 森繭代)

図1

乳がん検診を受けましょう

日本では乳がんが増加しており、2019年には9万人以上の女性が乳がんにかかると予測されました。(図1) 乳がんによる死亡数も残念ながら増え続けています。乳がんは30代から増加しはじめ、40代後半から50代前半にピークをむかえますが、最近では閉経後の罹患も増えています。(図2) 日本の乳がん検診受診率は30~40%と低い状況が続いています。早期発見のためにも、ぜひ定期的ながん検診の受診をお勧めします。

では、ここから乳がん検診でよくいただくご質問についてお答えしていきたいと思います。


Q1 マンモグラフィと超音波検査(エコー)のどちらを受けたらよいのでしょうか?

マンモグラフィでは、乳がんのしこり(腫瘤(しゅりゅう))だけではなく、乳がんの石灰化(小さな砂粒のようなもの)を見つけることができます。しかし、もともとの乳腺濃度が高い場合、正常乳腺(マンモグラフィでは白く写ります)に隠れてしまい、小さなしこり(こちらも白く写ります)を見つけられないことがあります。一方、超音波検査では1㎝よりも小さなしこりを見つけることができますが、小さな石灰化は見つけられないことがあります。このため、乳がん検診では、マンモグラフィと超音波検査の双方(石灰化の見落としがないようにマンモグラフィ、小さなしこりの見落としがないように超音波検査)を受けていただきたいと考えています。

乳腺外科での精密検査ではマンモグラフィと超音波検査の双方を実施いたしますが、区市町村の検診では、多くの場合、年齢に応じてマンモグラフィまたは超音波検査のどちらか一方に決められています。また、職場関連の検診でも、どちらか一方の検査を選ぶ必要がある場合があります。もしどちらか一方を選ぶということであれば、マンモグラフィがふさわしい場合と、超音波がふさわしい場合があります。ご本人の乳腺濃度(一度マンモグラフィを撮影するとわかります)が参考になりますので、乳がん検診担当医や乳腺外科医師にご相談ください。

 

Q2 今年は異常がなかったので来年は検診を受けなくてもいいでしょうか?

乳がんは、しこりが大きくなると、手で触っても、マンモグラフィでも、超音波でもわかります。でも、できれば、そうなる前に「早期発見」したいと、乳腺外科医は考えています。そこで大切なことは、定期的に乳がん検診を受けていただくことです。手でしこりを触れるようになる前に乳がん検診を受けていただきたいと考えています。また、乳がん検診の判定は、来年も検診を受けていただくことを前提としております。乳がん検診で全く異常がない場合にも必ず翌年には、乳がんの検診(住民検診・職域検診・人間ドック・東大病院予防医学センター他)を受けていただくようお勧めしています。

 

Q3 検査をうけたのに診察も必要なのでしょうか?・・・視触診と自己検診について

マンモグラフィや超音波で見つけられない乳がんが(頻度は高くありませんが)あります。ですから、画像検査だけではなく、乳腺外科医の診察にも意味があります。乳頭の変化、乳房のえくぼや皮膚変化が乳がんのサインのことがあります。乳腺外科医が診察で気がつく皮膚変化や乳房の変形は、日頃から意識していただいているとご自身でも気づくことができます。定期的な自己検診(手を頭の上にあげて鏡に向かう、ご自身で乳房内のしこりを探すなど)をお勧めしています。(自己検診方法はこのHP内の”自身で可能な健康チェック”をご参照ください。)

 

Q4 乳房に痛みがありますが大丈夫でしょうか?

乳房の痛みで乳腺外科を受診する方がいらっしゃいます。偶然乳がんが見つかることもありますから、乳がん検診や乳腺外科を受診する「きっかけ」としては、とてもよいと考えています。痛みにはいくつかの原因がありますが、乳がんが直接痛みの原因であることは基本的には「ない」のです。マンモグラフィや超音波で乳がんは見つかりますが、痛みの原因は見つからないのです。「痛いこと」は、乳腺にとって自然なこと生理的なことがほとんどですので、検査をして異常が見つからなかった場合にはどうぞ安心してお過ごしください。

 

Q5 がんになった家族が多いように感じます

がんの遺伝の可能性を知ることで、将来、がんになる可能性を予測し、健康や命を守ることができる場合があります。当院では、家族歴の確認・遺伝の可能性の推測・遺伝学的検査・健康対策について、じっくりと時間をかけて対応できるよう遺伝カウンセリングの体制を整えています。ご希望がある方は、お気軽にスタッフにお問い合わせください。

(乳腺外科・田辺 真彦)

(図1) がん罹患数予測 (2019年)

(図2) 年齢階級別 罹患率 全国推定値 (2015年)

脳血管ドックで何がわかるの? ~MRI検査の役割~

<脳血管ドックの目的>

脳血管ドックの最大の目的は「脳卒中の予防」です。脳卒中とは脳の血管が詰まったり破裂したりする病気の総称で、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、一時的に脳の血管が詰まる「一過性脳虚血発作」、脳内の血管が破れる「脳出血」、脳動脈瘤が破れる「クモ膜下出血」に分類されます。重症度は様々で、命が助からない方もいれば、麻痺やしびれなどの後遺症を残す方、無症状で潜在的に生じている方もいます。脳血管ドックではこういった脳卒中が発生しやすい人を見つけ、適切な予防対策を立てていくのが大きな目的です。

 

<頭部MRI検査でわかること>

脳血管ドックの中心的な検査となるのが、頭部MRI検査です。MRI検査とは強力な磁場によって体の断層像を可視化するもので、CTに比べると検査に時間がかかりますが、X線を使わないため被爆する恐れがなく、非常にリスクの低い検査です。脳血管ドックのMRIでは主に以下のような病変が見つかることがあります。

 

  • 大脳白質病変

大脳白質とは大脳の内側の大部分を占め、多くの神経線維が走行する領域です。大脳白質病変は加齢や生活習慣に関連する脳小血管病の代表的変化です。軽度のものに病的意義はないとされていますが、高度なものは脳卒中や認知症の危険因子とされています。MRIではT2強調像やFLAIR像で脳内に白い斑点が見られ、高度になるとこれらが癒合し塊状となります(画像1)。

 

  • 無症候性脳梗塞

無症候性脳梗塞とは、MRI検査では脳梗塞が見られるものの、本人は症状を自覚していない脳梗塞のことです。脳卒中や認知症の危険因子とされています。見つかるものの多くは脳深部の小さな梗塞で、FLAIR像でリング状に白い病変が見られるのが特徴です(画像2)。

 

  • 脳微小出血

脳微小出血は高齢者や高血圧の方に多く、脳卒中の中でも特に脳出血を発症するリスクが高いとされています。脳の深部にあるものは脳小血管病に起因することが多いですが、脳の表面に近いものには脳アミロイド血管症に起因するものがあります。MRIではどの画像でも点状や線状の黒い構造として描出されます。

 

  • 脳動脈瘤・脳動脈狭窄

MRI検査の中には脳動脈だけを可視化するMRAという検査が含まれており、血管を多数の方向から観察することができます。血管がなめらかな走行ではなく、瘤状に膨らんだ部分を動脈瘤といい(画像3)、細くなっている部分を狭窄といいます(画像4)。動脈瘤は破裂することで出血をきたし、狭窄は血管が詰まることで脳梗塞を生じることがあります。

 

  • 脳腫瘍

無症状で偶然に見つかる脳腫瘍はほとんどが良性腫瘍で、髄膜腫、下垂体腫瘍、聴神経腫瘍などが見つかることがあります。

 

<病気が見つかったら>

大脳白質病変、無症候性脳梗塞、脳微小出血は脳卒中や認知機能低下の危険因子です。これらの病変が見つかった方は将来脳卒中を起こす可能性が高いため、積極的に予防する必要があります。食事運動療法に加えて、高血圧に対する降圧療法の他、糖尿病や脂質異常症の管理が中心になります。頸動脈狭窄がある場合は出血リスクの低い抗血小板薬(血液を固まりにくくするお薬)の投与が推奨されますが、すでに脳微小出血がある場合は脳出血を発症するリスクが特に高いため、抗血小板薬の投与は慎重になる必要があります。また、不整脈に起因する脳梗塞の場合は抗凝固薬(別の種類の血液を固まりにくくお薬)が投与されることがあります。このように患者さんごとに抱えるリスクが異なるため、MRIで病変が見つかったらまずは専門科を受診し、それぞれの問題点を整理する必要があります。その上で個々人にあった治療・予防をしていくことになります。

 脳動脈瘤については30歳以上の成人に比較的高頻度(3%強)に見つかるとされており、ことさら神経質になる必要はありません。しかしながら、サイズの大きいものや形が不整なものなどは破裂するリスクが高いため、治療を含めた慎重な検討が必要です。また小さな動脈瘤も将来的に大きなものになることがありますので、経過観察をしていく必要があります。

 

<どんな人が脳血管ドックを受診すべき?>

以下の項目に当てはまる方は脳卒中のリスクが高く、積極的に受診が勧められます。

40歳以上

・家族や血縁者に脳卒中になった人がいる

・高血圧、高血糖(糖尿病)、脂質異常症などの生活習慣病を指摘されている

・喫煙者

・お酒をよく飲む

・肥満傾向

 

※頭痛、めまい、手足のしびれ、物忘れなどの自覚症状がある方は、脳ドックではなく、通常の保険診療でのお早めの受診をお勧めします。

 

MRIを受けられない方>

体内に金属のある方、妊娠の可能性のある方、閉所恐怖症の方、刺青のある方などはMRIを撮影できない場合があります。詳しくは脳血管ドック『受信者向けご案内』をご覧ください。

 

<最後に>

医療の進歩により脳卒中による死亡は激減しましたが、今なお脳卒中が医療介護費用のトップとなっています。命は助かっても後遺症が残れば、日々の生活に不自由を感じながら過ごすことになってしまいます。脳卒中の予防に一番大切なのは普段から低塩分・低脂肪な食事をとり、適度な運動を心がけ、喫煙や大量飲酒を避けることに間違いありませんが、これらを完璧にこなせる人は多くありません。一度脳血管ドックを受診し、脳卒中の予防に役立ててみてはいかがでしょうか?

 

(出典:脳ドックのガイドライン2019 改定第5版)

文責:中井雄大

(図1)左:正常例。右:大脳白質に斑状・癒合状の白い構造が広く見られ(矢印)、大脳白質病変の所見です。

(図2)左の基底核と呼ばれる領域にリング状の白い構造が見られ(矢印)、古い脳梗塞による傷痕の所見です。

(図3)脳の血管だけを抜き出したMRAと呼ばれる画像です。左内頚動脈に瘤状の膨らみがあり(矢印)、脳動脈瘤の所見です。

(図4)右内頚動脈の連続性が途絶え(画像左側の矢印)、左内頚動脈は一部で細くなっており(画像右側の矢印)、脳動脈狭窄の所見です。

脂肪肝ってどんな病気?

 名前の通り、脂肪が肝臓内に溜まってしまった状態を脂肪肝と言います。人間ドックでは、一般的に腹部エコーで肝臓が腎臓より白く見えること(肝腎コントラストと言います)で診断されます(画像1: 正常の肝臓、画像2:脂肪肝)。

 脂肪肝はよほど進行して肝硬変や肝がんまで進展しないと自覚症状は出ないため、健康診断などで初めて指摘されることがほとんどです。日本でも増加しており、男女合わせると30%程度、男性の人間ドック受診者では約半数に認められたという報告もあります。
 このように非常に頻度が高いため、逆に重大な疾患であるという認識が乏しくなりがちですが、実は肝臓だけでなく、心筋梗塞や脳卒中、糖尿病などの危険性を高めるなど全身への影響もあり、とても重要な疾患です。

 本コラムでは、脂肪肝の原因や大切さ、診断された場合の対処法などについて解説していきます。

脂肪肝の原因

 表1のように様々な要因が脂肪肝を引き起こしますが、以前はアルコールを多量に摂取することによる影響が一番大きいと考えられていました。しかし、アルコールをほとんど摂取しない方にも脂肪肝が多く認められることが明らかとなり、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease, NAFLD)と呼ばれ注目されています。
その中でも肝臓に強い炎症が起こり、肝臓が壊れたり再生したりを繰り返した結果の線維化が生じている状態を非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis, NASH)と呼び、肝硬変や肝がんへの進行に加えて、糖尿病や心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクが特に高まるとされています。本邦にNAFLD1000-2000万人、NASH100-200万人の患者さんがいらっしゃるのではないか、と推計されています。

1 脂肪肝の主な病因

飲酒 いくつかの薬物
肥満・メタボリックシンドローム 膵頭十二指腸切除術後
糖尿病・脂質異常症・高血圧 睡眠時無呼吸症候群
様々な内分泌・代謝疾患 など


脂肪肝は悪い病気?

 冒頭に非常に頻度が高いため、逆に重大な疾患であるという認識が乏しくなりがちであるというお話をしましたが、脂肪肝は実は肝臓だけでなく、心血管イベントや糖尿病など全身への影響もあり、とても重大な疾患です。
特に非飲酒者の脂肪肝NAFLDでは、心血管イベントを起こすリスクは一般住民に比較して約2倍であることが明らかになっています。
 さらにNAFLD10-20%が進行性のNASHとされており、NASHの患者さんでは5-10年の間に5-20%の方が肝硬変に進んでしまいます。肝硬変に進行したNASHでは、5年で約10%の方に肝がんが発症したと報告されています。

 

脂肪肝と言われたら

 治療の第一は食事や運動といった生活習慣の改善であり、肥満者では7%の減量が目標とされています。そして糖尿病・脂質異常症・高血圧といった基礎疾患がある方はその治療が大切です。ビタミンEの投与がNASHを改善したという報告がありますが、今のところNASHに対する保険適応はなく、NAFLDおよびNASHに対する直接的な治療薬はまだ確立していないのが現状で、世界中で治療法の開発が進められています。

消化器内科・奥新和也

正常の肝臓(写真の左側が肝臓、中心の楕円形の臓器が腎臓です)

脂肪肝(肝臓が腎臓より白くなっており、肝腎コントラストが認められます)

慢性便秘症:生活習慣の改善と下剤使用における注意

 慢性便秘症は「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。近年、明らかに増加しているというデータはありませんが、女性に多く、また、高齢になればなるほど患者数が増加することが分かっています。「腸内容物の通過を妨げる病気(通過障害)」(器質性といわれます)がないことを確認することが最も重要で、特に大腸がんを見落とさないことが大切です。大腸がんは我が国で最も患者数の多い悪性腫瘍であり、我が国では増加の一途を辿っていますので、大腸がん検診の重要性は特に高まっています。また、他の病気に伴う便秘症(続発性)や、飲んでいる薬によって起こる便秘症(薬剤性)もありますので、これらを見落とさないことも大事です。ただ、こうした明らかな原因がないにもかかわらず、便秘の症状を訴える人は非常に多く、現在の医療の大きな課題となっています。

 器質性・続発性・薬剤性などの原因がないにもかかわらず、慢性便秘症を訴える患者の大規模な解析が行われ、「慢性便秘がある人とない人を比べた場合、慢性便秘がない人の方がある人よりも長生きである」という研究成果(Am J Gastroenterol 2010, 105:822)が報告されました。こうした研究の結果を踏まえて、慢性便秘症のコントロールの重要性が再認識されるようになっています。

 

 慢性便秘症では器質性・続発性・薬剤性の便秘を見落とさないことが重要ですが、その上で、以下のような生活習慣の改善が便秘の予防に有用と考えられています。

1) 朝食をしっかり食べる

 日本人は朝食を食べない習慣の人が多く、特に若い世代では多い(20歳代では約30%)ことが報告されています。食事によって排便が刺激されますが、この刺激も朝食後が最も強いことが知られています。

2) 水分摂取

 十分な水分を取ることは便秘改善に有効です。

3) 食事内容の改善

 食物繊維の摂取やプロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌)の摂取の有効性が報告されています。

4) 適度な運動

 便が腸内を通過する時間を短くする効果が報告されています

5) 排便習慣を確立する

 排便したいと思わなくても、毎朝、トイレに座る習慣をつけることが有効とされています。また、排便時の姿勢も大事とされており、洋式トイレの場合は、① 両足のかかとをつける、② 上半身を前かがみにする、の2つを心掛けることが推奨されています。

 

 生活習慣の改善で便秘のコントロールが難しい場合には、便秘治療薬(下剤)を検討することになります。下剤には様々な種類があり、気軽に薬局でも購入できますが、注意しなければいけないのは、「刺激性下剤」の長期間の使用は可能な限り避けるべきということです。刺激性下剤の多くは習慣性(依存)があり、薬を使い続けていると効かなくなってしまって、より多くの薬が必要になる、という悪循環に陥ることがあります。実際に我が国では、刺激性下剤の濫用によって、慢性便秘症を悪化させてしまっているケースが非常に多いと考えられています。一方、酸化マグネシウムに代表される「浸透圧下剤」はこうした依存が生じないため、第一選択として推奨されています。ただし、他の薬との飲み合わせが悪い場合があり、高齢の方で多くの薬を飲んでいるような方は注意が必要です(最近、発売された「浸透圧下剤」であるモビコールという薬剤は、こうした飲み合わせの問題はほぼありません)。

 2012年以降、副作用が少なく有効性の高い便秘症の治療薬が相次いで開発され、医療機関での処方薬として使用できるようになりました(表1、表2)。治療の選択肢が広くなったことは良いのですが、下剤の種類が増えて使い分けも難しくなっており、また、気軽な下剤の濫用はかえって病気を悪くする恐れもありますので、下剤の長期的な内服を検討される場合には、一度は消化器の専門医に相談されることをお勧めします。

 

(山道信毅)

【表1】主な便秘治療薬の一覧(一般名、赤字が最近、発売された薬剤)

【表2】主な便秘治療薬の一覧(商品名、赤字が最近、発売された薬剤)

大腸がんとその検査方法

【はじめに】
   最新の統計によれば年間5万人を超える方が大腸がんで亡くなっています。その死亡者数は胃がんを抜き、1位の肺がんに次ぐ2位となりました。大腸がんは死亡者数、罹患者数ともに年々増加しており今後もさらに増えることが予想されています。大腸がんは40歳代から増えはじめ、高齢になるほど増加していきます。

出展:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」

【大腸がんのリスク要因】
   大腸がんの発生には生活習慣が影響していると考えられています。リスクを高める可能性がある要因としては喫煙、糖尿病、赤肉/加工肉、飲酒、肥満とする報告があります。一方、リスクを減らす可能性がある要因としては食物繊維や運動との報告があります。

【大腸がんの発生経路】
   一般的な大腸がんは大きく分けて2つの発生経路があり、多くは①の経路で発生します。 

①ポリープががん化して発生するもの

②正常な粘膜にいきなりがんが発生するもの

   大腸ポリープにはいくつか種類がありますが、最も多いのは「腺腫」と呼ばれる腫瘍が成長する過程で大腸がんとなっていく経路です。「腺腫」は大腸がんになるポテンシャルをもつ「前がん病変」であり、大きくなるほどがんの頻度が高くなります。この「前がん病変」を摘除することで将来的な大腸がんの発生を予防する効果が期待できます。

【大腸がんの検査方法】
   大腸がんを見つけるための検査方法としては①便潜血検査、②大腸内視鏡検査、③注腸X線検査、④大腸カプセル内視鏡検査、⑤CTコロノグラフィーがあります。

   便潜血検査は主に自治体や職場の健診で行う大腸がん検診で、当センターの基本検診にも含まれています。安価、安全、簡便な検査方法で、毎年継続して受けることで大腸がん死亡率が減少することがわかっています。便潜血検査で陽性となった場合は大腸内視鏡などの精密検査が必要です。

   大腸内視鏡検査は人間ドックなどの任意型検診や、便潜血陽性者の精密検査として実施されています。大腸がんに対する大腸内視鏡検査の感度(がんを見落とさない確率)は95%以上であり、便潜血検査では陽性とならないような初期のがんや小さなポリープ(腺腫)の診断にも優れているといえるでしょう。また、気になる病変があった場合は生検(組織検査)を行うことでどのような性質の病変であるのか診断することができます。検査前に下剤を飲んで大腸を空っぽにする必要があります。

   注腸X線検査は肛門からバリウムを流し込んで大腸を観察します。異常があった場合は精密検査が必要となります。注腸検査はX線検査なので被ばくを伴い、また、大腸内視鏡と同様に検査前に下剤で腸の中を空っぽにする必要があります。近年、大腸内視鏡検査の普及とともに検診として行われることは少なくなってきています。

   大腸カプセル内視鏡検査は約3㎝のカプセルを飲み、腸の蠕動運動を利用して腸の中を進みながら大腸を撮影する検査です。大腸内視鏡と違い、「恥ずかしい」「怖い」といった精神的な負担は感じにくいかもしれません。ただし、検査前後で飲む下剤の量が多いこと、病変が小さかったり大きすぎたりすると映し出しにくいこと、検査費用が高いことが難点です。

   CTコロノグラフィーは肛門から空気を注入して大腸を拡張させた状態でCT撮影をし、画像処理によってあたかも内視鏡画像のように画像を再構成する方法です。下剤を飲んで腸を空っぽにする必要があります。撮影は仰向けとうつ伏せ、2方向で行います。CT撮影なので被ばくを伴います。異常があった場合は大腸内視鏡検査などの精密検査が必要です。

出典:有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン

【最後に】
   大腸がんは粘膜にとどまっているうちであればほぼ根治が可能な病気です。予防医学センターでは、基本検診で便潜血検査が含まれていますが、さらにオプション検査として、大腸内視鏡検診を実施しています。鎮静剤をご希望の方には適切な量の麻酔を使用することで、よりリラックスした状態で検査を受けて頂くことができます。40歳を過ぎたら大腸がん検診を受けましょう。実際の大腸内視鏡検査方法については次の機会に詳しく解説します。

(瀧澤 初)

【統計】死亡者数の多いがん(2017年)

【統計】罹患者数の多いがん(2017年)

【腺腫の例】腺腫

【腺腫の例】鋸歯状腺腫

循環器病(脳卒中等)対策基本法と予防医学

(1) 循環器病(脳卒中等)対策基本法

 昨年12月、社会保障政策の要である「健康寿命の延伸」の具現化に向けた新たな法律、「循環器病(脳卒中等)対策基本法」(正式名称:健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法)が、日本循環器学会(小室一成理事長)と日本脳卒中協会(峰松一夫理事長)の連携のもと衆議院本会議にて可決、法案が成立しました。同法は、脳卒中や心筋梗塞など循環器病の「予防推進」、「適切な医療体制の整備」、「教育ならびに啓発」、「研究の推進」を主柱とし、国民の健康寿命の延伸と医療介護の負担軽減を実現することを目的とします。法案の成立を見据えて先行作成した「脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画」では、重要3疾患として脳卒中・心不全・血管病をあげ、脳卒中と循環器病による年齢調整死亡率を5年間で5%減少させることを大目標に設定しています。

(2) 循環器病の病態と疫学、心不全を中心に

 日本人の死因の第1位は悪性新生物、第2位は心疾患、第3位は脳血管疾患ですが、心疾患と脳血管疾患の両者を合わせると、後期高齢者での死亡者数は悪性新生物を凌駕し、死因の第1位となります。また後期高齢者において悪性新生物の2倍の医療費を費やすこと、そして脳卒中と心臓病を合わせた「脳心血管病」の罹患数が増加傾向にあることも、看過できません。例えば、「脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画」の重要3疾患にあげた「心不全」は「あらゆる心疾患の終末像」であり、寛解と増悪を繰り返し難治性である、という特徴を持ちます。この心不全に関し、疾患登録データ「循環器疾患診療実態調査(JROAD)報告書(日本循環器学会)」を紐解くと、2015年では23万8,840人だった心不全入院患者数は、2018年には28万1,481人と年間1万人以上の割合で増加していることが判ります。2030年には心不全患者が130万人に達するとの推計もあり、今後の超高齢化社会では心不全患者の高齢化も懸念事項です。

 さて、患者の増加と高齢化が問題となる「心不全」ですが、最新の日本循環器学会ガイドラインでは、「なんらかの心臓機能障害, すなわち, 心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義されます。一方、心不全の一般向けの定義は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と発表されました。特筆すべきは心不全が予後不良の疾患群であることです。心不全の背景にある心疾患は、虚血性心疾患、弁膜症、心内膜・心筋・心膜疾患、不整脈、先天性心疾患など多種多様でありますが、図1に示す通り、心不全に共通する症状、すなわち呼吸困難・倦怠感・浮腫といった心不全兆候の出現を契機に発症し、その後、慢性心不全(寛解状態)と急性心不全(慢性心不全の急性増悪状態)を繰り返し、不可逆的に進行します。一般に心不全の5年生存率は50%であり、予後の悪さは悪性新生物に匹敵します。

(3) 循環器予防医学と啓発の重要性

 循環器病対策基本法の基軸のひとつは「予防啓発」であり、同法では国民の責務として「生活習慣の改善による予防等に関する理解と関心を深める」ことを推奨しています。図1に示す通り、高血圧、糖尿病、動脈硬化性疾患、喫煙、腎臓病などは、循環器疾患の発症リスクであります。国外に目を向けると、米国心臓病学会(American Heart Association)でも2020年戦略として心臓病と脳卒中の予防ならびに死亡数の低減を図っており、やはり高血圧、脂質異常症、糖尿病の治療、禁煙、食事、運動、減量が心疾患・循環器病の7項目が予防に有効とし、Life’s Simple 7として推奨しています。循環器疾患を予防するには、生活習慣に対する意識改革が大前提ではありますが、検診や人間ドックを定期的に受けることで、生活習慣病のチェックが行えます。また東大病院予防医学センターで実施している心血管ドックでは、より詳細な心機能評価ができます。「心臓超音波検査」では陳旧性心筋梗塞、弁膜症、心筋症、先天性心疾患など様々な心疾患の検出が、「頸動脈超音波検査」では早期動脈硬化ならびに頸動脈狭窄の評価が可能です。血液検査では、心不全の血液指標としてBNP(B-ナトリウムペプチド)、動脈硬化・脂質異常症の血液指標としてリポ蛋白を測定します。また加齢により進行する血管硬化度や下肢動脈閉塞の有無も確認します。人生100年時代では健康寿命が肝要です。是非とも人間ドックを上手に活用して、健やかな毎日をお過ごしください。

(水野由子)

ピロリ菌ってなあに?

 ピロリ菌 Helicobacter pylori (H. pylori) とは、胃の中に生存する細菌です。欧米と比較すると日本での感染率が高く、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌の最大の原因になります。
 
 では、どのように感染するのでしょうか。約80%が家庭内で感染し、特に母子間での感染が多いとされています。ピロリ菌はヒトの胃粘膜にのみ感染し胃の外では長く生きることができないので、感染経路は胃-口感染とされていますが、どのような行為で感染するかはわかっていません。成人では一時的に感染が起きても持続的に感染することは少なく、基本的には5歳以下の小児期に経口的に感染し、胃粘膜に定着し慢性的な炎症を引き起こします。持続的な感染が起きた場合は、ほぼ100%慢性胃炎となり、胃癌のほとんどはピロリ菌感染に伴う慢性胃炎を背景として発症してきます。感染者で慢性胃炎があると、年間0.3%程度の胃癌発生リスクがあります。ピロリ菌除菌によって胃癌発症は抑制されるため、胃癌予防には除菌することが大切です。
 
 ピロリ菌感染があるかないかの検査法については、菌自体を培養する細菌学的診断、病理組織学的診断、菌体の有するウレアーゼ活性を指標とした迅速ウレアーゼ試験、尿素呼気試験、血清抗体診断法、尿中抗体診断法、糞便中の特異抗原測定法があります。大きくは、一度もピロリ菌に感染したことがない「未感染」、現在感染している「現感染」、過去の感染や除菌後の「既感染」の3つに分けられます。内視鏡検査で慢性胃炎と診断された場合、除菌後や自然除菌された既感染の場合も含まれます。逆に、内視鏡検査で慢性胃炎が軽く未感染と間違う場合もあるので、必ず一度はピロリ菌のチェックをするようにしましょう。
 
 ただ、ピロリ菌陰性という結果であっても、血清抗体検査(血液検査)の場合、陰性の中には既感染も含まれるため、内視鏡検査など他の検査と組み合わせた診断がより確実です。特に血清抗体価は陰性の結果であっても、その数値が比較的高めの場合は、既感染が多いとされています。また、除菌によって胃粘膜の炎症が改善すると胃癌リスクが軽減しますが、最も良い報告でもリスクが約1/3になる程度で、未感染者と比較すると胃癌のリスクははるかに高いことが知られています。除菌成功後も胃癌は発見されるため、1年に1度の定期的な内視鏡検査は行うようにしましょう。除菌治療は多くのメリットがありますが、注意点としては、除菌後に一時的に逆流性食道炎が出現・増悪したり、肥満やコレステロール上昇などの生活習慣病が生じることが報告されています。規則正しい生活が健康の基本であることは変わりませんので、常に心がけることをお勧めします。 

(新美 惠子)

未感染

現感染

既感染

薬物乱用頭痛ってどんな病気?

頭痛は頻度の高い疾患であり、片頭痛は我が国の人口の5~10%、緊張型頭痛は20%に認められるという報告があります。軽度の頭痛であれば市販の頭痛薬の使用により改善することも多いため、頭痛有病者の65%は病院を受診した経験がなく、また57%は市販の鎮痛薬で対応しているという報告もあります。

しかし、頭痛薬の過剰な使用により、かえって頭痛を増悪させてしまうという病態があることをご存知でしょうか。薬剤使用が引き金となって、痛みに対する感受性が亢進することにより、頭痛頻度や持続時間が増加して、慢性的に頭痛を呈することがあり、これを「薬物乱用頭痛」と呼びます。もともと片頭痛や緊張型頭痛を有する方が、薬物乱用頭痛の状態になりやすいといわれており、関節リウマチなど頭痛以外の伴う疾患に対して大量に鎮痛薬が使用される疾患で生じることは極めてまれです。薬物乱用頭痛の頻度は1~2%といわれており、緊張型頭痛、片頭痛に次いで多い頭痛です。また以前は医療機関でしか手にはいらなかった鎮痛薬が最近薬局で店頭販売されるようになった影響により、今後増加することが懸念されています。
原因となる薬剤は、非ステロイド性鎮痛薬や、エルゴタミン、トリプタン、複合鎮痛薬等であり、市販の鎮痛薬を乱用しているケースも多くみられます。

診断のポイントは下記の通りです。
・頭痛は1か月に15日以上存在する。
・3か月以上、下記薬剤を乱用している。
   エルゴタミン、トリプタンまたは複合鎮痛薬などを1か月に10日以上内服している。
   または単一成分の鎮痛薬を1か月に15日以上内服している。
・頭痛は薬物乱用により発現したか、著明に悪化している。

治療としては、以下が行われます。
1.原因となっている薬剤の中止(即時に中止する方法と漸減中止する方法がありますが、即時中止のほうが、治療効果が高いといわれています。)
2.薬剤中止後に起こる頭痛への対処
3.予防薬投与
もともとの頭痛(片頭痛、緊張型頭痛等)の予防薬(アミトリプチン、バルプロ酸、ロメリジン、プロプラノロール等)を使用します。

1~6か月後の治療成功率は70%ですが、長期的には40%で再発もみられるため、医療機関をきちんと受診し治療に取り組むことが重要です。頭痛の頻度が高く、市販薬も含めて鎮痛薬等を1か月に10日以上内服している状態が続いている、内服しても効果がなく薬を飲みすぎてしまう、というような場合は、薬物乱用頭痛の可能性がありますので、まずはかかりつけ医へのご相談をお勧めします。

診断には、もともとの頭痛の性質や服用薬剤の種類・服用量・服薬期間等の詳しい情報が重要ですので、受診の際には、ぜひ頭痛ダイアリー(頭痛日数、頭痛の性状、誘発因子、随伴症状、薬剤使用状況、効果などの記録)をお持ちになることをお勧めします。また、薬物乱用頭痛にならないために、普段から市販薬を含め鎮痛薬等を飲みすぎないように注意しましょう。

 (松本ルミネ)

高血圧ってどんな病気?

高血圧は自覚症状がほとんどないため、健康診断で指摘されてもそのまま放置してしまう人が少なくありません。しかし、糖尿病や脂質異常症などとともに、心筋梗塞や脳梗塞の危険因子の一つと位置付けられる重要な生活習慣病です。日本における高血圧有病者数は約4300万人と推定され、60歳代以上の60%が高血圧と言われています。高血圧になると血管に常に負担がかかるため、血管の内壁が傷ついたり、柔軟性がなくなって固くなったりして、動脈硬化を起こしやすくなります。高血圧を正しく理解し、予防のためにライフスタイルを改善したり、適切な治療を受けることが大切になります。

そもそも高血圧とは、安静状態での血圧が慢性的に正常値よりも高い状態をいいます。ちょっとしたきっかけ(気温の変化、睡眠不足、緊張や興奮、急激な運動など)による一時的な血圧上昇は高血圧とは言いません。そこで、高血圧と診断するためには正しい血圧測定が必要になります。血圧は健康診断時や病院受診時に測る方が多いと思いますが、高血圧の診療方針をまとめた「高血圧治療ガイドライン2014」では、「診察室血圧と家庭血圧の値に差がある場合には、家庭血圧による診断を優先する」と、家庭血圧が重視されています。家庭血圧での高血圧診断基準は収縮期血圧135mmHg以上・拡張期血圧85mmHg以上と、診察室での診断基準(収縮期140mmHg以上・拡張期90mmHg以上)よりもやや低めに設定されています。(1)

家庭血圧の測り方をご紹介しますので、ぜひ測定してみましょう。

◇椅子に座り、12分安静の後に測定しましょう。

◇上腕カフ式血圧計を使用しましょう。

心臓の高さに近い上腕部での測定が最も安定しています。

◇起床後と就寝前に2回ずつ測定し、朝と夜それぞれの平均値を出しましょう。

◇朝は起床後1時間以内。排尿後、朝食や薬を飲む前に測定しましょう。

◇夜は就寝前。夕食や飲酒直後、入浴直後の測定は避けましょう。

家庭血圧が基準を越える日が多いようであれば、まずは食生活や生活習慣を見直しましょう。塩分の多い食事は血圧上昇の原因となります。16gまでの摂取を目標にしましょう。また、肥満や運動不足は動脈硬化を促進させ高血圧の原因となります。通勤でのウオーキングなど毎日30分程度の有酸素運動を心がけ、適正体重を維持しましょう。喫煙・アルコールの過剰摂取・睡眠不足なども血圧に影響しますので気をつけましょう。生活習慣を見直しても血圧が下がらない場合には、降圧薬治療を考慮することになります。降圧目標(2)は年齢や合併症によってかわってきますので、かかりつけ医をつくり相談しましょう。

高血圧治療ガイドラインは2019年に改訂される予定ですので、最新情報をまたこのコラムでご紹介します。

 

(大関敦子)

図1:血圧測定と高血圧診断手順(高血圧治療ガイドライン2014より)

図2:降圧目標(高血圧治療ガイドライン2014より)

糖尿病ってどんな病気?

1114日は何の日でしょうか?

今回のコラムでは、糖尿病について説明いたします。糖尿病は、世界中で年々増え続けている病気です。実際、日本でも糖尿病人口の増加は深刻です。平成28年の国民健康・栄養調査では、「糖尿病が強く疑われる人」と「糖尿病の可能性を否定できない人」を合わせると約2,000万人。つまり、日本人の約15%に相当しますので、糖尿病は決して他人事ではありません。こうした中、国際連合は1114日を「世界糖尿病デー」と決め、糖尿病の予防や治療が重要であることを全世界に広める取り組みを行っています。(図1)は、世界糖尿病デー願いを形に表した、「ブルーサークル」です。ブルーサークルは、青い空をイメージしています。世界中、どこまでも広がる空を表す「ブルー」と、団結を表す「輪」を意味しています。つまり、「世界で団結して糖尿病と闘いましょう」という願いが込められています。ちなみに1114日が選ばれた理由は、糖尿病治療にとても重要なインスリンを発見したバンティング博士の誕生日だからです。インスリンについては、このコラムで説明します。

糖尿病はどのような病気でしょうか?

糖尿病は、インスリンの働きが悪いことが原因で、慢性的に血糖値が高い状態が続く病気です。食事やお菓子を食べたり、甘いジュースを飲んだりすると、消化管で糖分が吸収され、血糖が上がります。本来、血糖は体にとって重要なエネルギー源です。ですので、体の中には、血糖を上げるように調整してくれるホルモンが何種類も存在します。私達が多少の長い間、食事を食べなくても元気に生きていけるのは、こうしたホルモン達が血糖を上げてくれるからです。ところが、血糖は高ければ良いのかというと、そうではありません。血糖の上がり過ぎが体にダメージを与えてしまうので、血糖が上がり過ぎないように、うまく血糖を下げてくれるホルモンがたった1つあります。それが、インスリンです。インスリンは、膵臓で作られ、血液中に分泌されます。インスリンのおかげで、私達は血糖値の上昇を心配せずに飲み食いが出来ます。ところが、膵臓からのインスリンの分泌が落ちてしまったり、様々な原因でインスリンの効き具合が悪くなってしまったりすると、血糖が下がりにくくなり、血糖値が高い状態が続きます。

糖尿病はどのような病気でしょうか?

糖尿病は、インスリンの働きが悪いことが原因で、慢性的に血糖値が高い状態が続く病気です。食事やお菓子を食べたり、甘いジュースを飲んだりすると、消化管で糖分が吸収され、血糖が上がります。本来、血糖は体にとって重要なエネルギー源です。ですので、体の中には、血糖を上げるように調整してくれるホルモンが何種類も存在します。私達が多少の長い間、食事を食べなくても元気に生きていけるのは、こうしたホルモン達が血糖を上げてくれるからです。ところが、血糖は高ければ良いのかというと、そうではありません。血糖の上がり過ぎが体にダメージを与えてしまうので、血糖が上がり過ぎないように、うまく血糖を下げてくれるホルモンがたった1つあります。それが、インスリンです。インスリンは、膵臓で作られ、血液中に分泌されます。インスリンのおかげで、私達は血糖値の上昇を心配せずに飲み食いが出来ます。ところが、膵臓からのインスリンの分泌が落ちてしまったり、様々な原因でインスリンの効き具合が悪くなってしまったりすると、血糖が下がりにくくなり、血糖値が高い状態が続きます。

どのように糖尿病の診断をつけるのでしょうか? 

高血糖が慢性に続いていることを証明する必要があります。適切な診断のためには、血液検査を受けていただく必要があります。糖尿病の診断や治療に有用な代表的な項目として、血糖値、HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)があります。血糖値は、血液検査を受けるときの状態によって、絶えず変わります。しかしHbA1cは、血液検査を受ける瞬間からさかのぼって、過去1~2カ月間の血糖値の平均が分かります。つまり、血糖値が正常であっても、HbA1cが高ければ、過去1~2カ月間は血糖が高い状態が続いていたことになります。ただし、「口やのどが渇く」、「尿量が多い」、「不自然に体重が減る」などの自覚症状がある場合や、糖尿病網膜症(糖尿病による眼の病気)がある場合は、初回の検査だけでも糖尿病の診断がつきます。また、初回の検査で異常を認めなくても、過去にこれらの自覚症状があった記録や、過去に糖尿病型を示した資料(検査結果)がある場合も、糖尿病の疑いをもって慎重に対応する必要があります。

糖尿病にはどのような分類があるのでしょうか?

糖尿病には複数の分類があります。糖尿病のほとんどは、2型糖尿病です。若い頃はインスリンがきちんと働いて血糖値を下げてくれていたにも関わらず、食事の乱れや運動不足、肥満などが重なり、インスリンの効き具合が徐々に悪くなり(これをインスリン抵抗性と呼びます)、2型糖尿病を発症します。一方、インスリンを作ってくれる膵臓の細胞が壊れてしまい、インスリンが完全に分泌されなくなる1型糖尿病もあります。一般に、1型糖尿病はお子さんに多く、2型糖尿病は成人に多い傾向があります。しかし、1型糖尿病は成人でも発症することがあり、最近は生活環境の変化からお子さんでも2型糖尿病を発症することが増えてきました。また、膵臓の病気や肝臓の病気、感染症、薬の副作用などで発症する糖尿病や、妊娠によって発症する糖尿病もあります。このように、糖尿病には様々な分類がありますので、健康診断や人間ドックで糖尿病の診断を受けた方は、必ず医療機関を受診するようになさってください。

糖尿病にはどのような合併症があるのでしょうか?

糖尿病の合併症として、急性期の合併症と慢性期の合併症の2つがあります。まず、慢性期合併症から説明します。糖尿病が長期間続くと、全身の血管がダメージを受けてしまいます。細い血管(細小血管)がダメージを受けてしまうと、網膜症(目が見えづらくなる病気)、腎症(腎臓の働きが落ちる病気)、神経障害(手足のしびれなど、様々な感覚異常が起きる病気)が起きます。太い血管(大血管)がダメージを受けてしまうと、冠動脈(心臓の働きが落ちる病気)、脳血管(脳の働きが落ちる病気)、末梢動脈(足の働きが落ちて歩けなくなる病気)が起きます。これらはいずれも、日常生活をおびやかす危険な病気です。また、急に血糖値が上昇してしまうことにより、糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群という急性期の合併症も起きます。急性期の合併症はあまり知られていない印象がありますが、命をおびやかす危険な病態です。最近の研究結果では、骨折、歯周病、感染症、認知症、一部の癌では糖尿病との関連が高いことも知られています。

糖尿病にはどのような治療があるのでしょうか?

糖尿病の治療として、食事療法、運動療法、薬物療法の3本柱が重要です。ただし、治療は千差万別です。糖尿病の分類、生活背景や御年齢などをよくよく考えながら、個々の患者さんに一番合う治療法を考える必要があります。糖尿病の治療は、主治医の先生をはじめ、看護師さん、栄養士さん、理学療法士さんなど、多くの医療スタッフと連携を取りながら取り組む必要がありますので、かかりつけの医療機関でよくご相談ください。またの機会に、このコラムでも治療法については取り上げたいと思います。

糖尿病は、血液検査や尿検査をお受けいただくことで診断につながる病気です。自覚症状の有無に関わらず、健康診断や人間ドックで検査をお受けになることが極めて重要です。確かに、つらいことや不安なことも多い病気ですが、患者さんと医療スタッフの二人三脚で治療を行うことが出来れば、糖尿病は決して怖い病気ではありません。糖尿病に負けず、糖尿病と闘ってまいりたいと考えております。

 

(文責 升田 紫)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)ってどんな病気?

(疫学)

COPDはたばこの煙等の有害物質の吸入や大気汚染に長期に暴露されることによって生じる慢性炎症性の肺の疾患です。我が国でも500万以上の患者さんが存在すると推定されています。喫煙が最大の原因であり、喫煙されている方の1520%がCOPDを発症すると言われており、喫煙量やタバコに対する感受性(遺伝的要因)が発症に関与すると考えられており、世界的に研究が行われています。

 

(症状)

肺に慢性的な炎症が起こる事で、咳嗽や喀痰が慢性的な症状として出現します。また、健康な人でも加齢に伴って肺の機能が低下しますが、喫煙者でタバコの煙に感受性がある人では1秒間に吐き出すことのできる空気量(1秒量:呼吸機能検査で測定します)が低下することが分かっており、身体を動かした時に息切れを感じる労作時呼吸困難の原因となります。

また、慢性的な症状に加えて、風邪や気管支炎などの感染をきっかけとして急激に咳や痰や息切れの症状が悪化する急性増悪という状態が起こることもあり、呼吸不全の原因となり命に関わることもあります。特に重症度が高い患者さんに起きやすいです。

 

(診断)

主に慢性的に呼吸困難をきたす代表的な病気が図1ですが様々なご病気があります。問診、身体診察や血液検査、画像検査、心電図検査、呼吸機能検査など検査を組み合わせることで診断を行いますが、特に呼吸機能検査の1秒量や1秒率(1秒量÷肺活量)の低下が診断に重要です。

画像検査では、胸部レントゲンに加えて胸部CTで気腫性病変(2のように肺のCTで黒く抜けた部分として写り、肺の構造破壊の結果生じます)の検出が可能です。

 

(治療)

まずは、禁煙が第一です。禁煙をすることで今後進行する肺の機能の低下の度合いを軽減する事ができます。また、ワクチンを含めた感染の予防・対策が重要です。

次に症状や検査による重症度によって異なりますが、主に気管支拡張薬(抗コリン薬、β2刺激薬)の吸入を行って治療を行います。最新のトピックスとしては2018年のガイドラインでは、急性増悪の既往の多い症例では、抗コリン薬の吸入が特に推奨されるようになりました。さらに今年2月には抗コリン薬とβ2刺激薬を組み合わせた合剤の吸入が呼吸機能の改善だけでなく、心臓の機能の項目の一部について改善の可能性を示す結果が報告されており、注目されています。さらに重症度の高い方では酸素吸入療法を行います。

上述しましたように、我が国でも多数のCOPDの患者さんの存在が推定されていますが、大多数の方が未診断、未治療であることが問題であり、実際に症状が出現して医療機関を受診された際には、かなり病状が進んでいるケースもございます。禁煙が重要なのは、もちろんですが、診察や呼吸機能検査や画像検査によって症状が出現する前にCOPDの有無の状態を把握する事が可能です。症状が無い方でも喫煙歴がある方は検診によるスクリーニングの検査をお受けになっていただくことをお勧めいたします。

 

(松崎博崇)

図1: 主な慢性的な呼吸困難をきたす疾患

図2: CT画像所見

心房細動ってどんな病気?

こんにちは。今回は心臓病のひとつである心房細動についてご紹介してみたいと思います。みなさんは心臓の病気というとどういうイメージをお持ちでしょうか?今回紹介する心房細動は、いわゆる心臓発作と呼ばれる狭心症・心筋梗塞とは異なりやや専門性の高い病気ですが、みなさんの健康にも大きく関与し得る病気です。このコラムで少しでも心房細動に関する知識を身につけてくださると幸いです。


(
機序・概説)

正常な心臓は、安静時に1分間60100回拍動するよう洞結節によってコントロールされています。しかし、心房細動になると心房は無秩序に1分間に300700回も興奮するようになり、動悸・息切れ・易疲労感などの症状が現れ、中には重篤な脳梗塞を発症する方もいるので適切な診断と治療が重要です。右に検診で心房細動と診断された患者さんの心電図をお示しします。図2の心電図では図1と比較して基線に細動波が見られ、心拍も不整となっており、心房細動の心電図所見です。

(疫学)

我が国の疫学調査によると、心房細動の有病率は男女とも加齢とともに増加し、男性に多いとされています。その有病率は50歳代男性で0.8%、女性0.1%70歳代では男性3.4%、女性1.1%とされ、国内で70万人以上の方が心房細動を有するとされています。心房細動発症の危険因子としては年齢の他、弁膜症や虚血性心疾患などの基礎心疾患があることや飲酒、高血圧などが知られています。

(症状)

心房細動では動悸や息切れ、易疲労感がしばしば出現します。また、心房細動を放置しておくと、心不全によるむくみが出現するようになったり、心房内の血流が悪くなることで血栓が生じ、脳梗塞による突然の麻痺が出現することも知られています。脳梗塞の原因は複数のメカニズムが知られていますが、心房細動による脳梗塞は15%とその割合こそ少ないものの、最も重篤な麻痺や後遺症を起こしやすいとされており、適切な診断と治療が重要です。

(診断)

心房細動の診断は12誘導心電図により行います。また、心房細動が確定した際にはホルター心電図(24時間心電図)による心拍数の評価や、心臓超音波検査による心臓収縮の評価、弁膜症の有無などをチェックします。

あと、最も簡便な診断方法のひとつとして御自身でできる方法がありますが何かわかりますか?正解は、当HPの自身で可能な健康チェック欄にも記載がありますが、検脈(リズムチェック)です。検脈は慣れるまでは少し難しいかもしれませんが、みなさんの健康チェックにとって非常に有用な情報をもたらしてくれるので、自宅での血圧測定に加え検脈も是非取り入れてみてください。

(治療)

心房細動の治療は発症してからの持続期間により異なりますが、主に薬物による除細動(正常なリズムにもどすこと)、心拍数コントロール及び脳梗塞の予防が挙げられます。不整脈に対する薬物治療は非常に有用な手段であるものの、副作用に対する注意も必要ですので専門医による治療が望ましいと考えます。また、薬物治療に難渋し、かつ根治が期待できる患者さんにはカテーテルアブレーション(高周波発生装置を用いた心筋焼灼術)も最近広く行われるようになっていますので、主治医の先生と相談しながら適切な治療法を選択していくことが重要です。

 

以上、簡単ではありますが、心房細動について紹介させていただきました。当予防医学センターでも毎年新規発症の心房細動の方が見つかっております。心房細動の診断が確定した際には適切な対応をさせていただきますので、ご安心して検診を受けていただければと思います。

(山口敏弘)

図1:正常洞調律時

図2:心房細動発症時

胃食道逆流症(GERD:ガード)って、どんな病気?

胃食道逆流症(GERD:ガード)は胃内容物が食道へ逆流して起こる病気です。胃から食道に逆流する原因は様々で、逆流する胃内容物も様々ですが、これによって起こる悪影響の大半は「胃酸の逆流」によるものだと考えられています。このため、胃酸分泌を抑える薬を使うことが、この病気の基本治療方針の一つになっています。胃潰瘍や十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)と比べると余り知られていない疾患でしたが、現在は一般の方への認知度も高まっています。現在の我が国における頻度は消化性潰瘍の10倍以上であり、最も頻度の高い消化管の病気の1つとなっています。

胃食道逆流症(GERD)は、(1) 内視鏡所見で異常所見を認める「逆流性食道炎」と、(2)逆流症状(胸やけや酸逆流症状)はあるけれども内視鏡検査で異常のない「非びらん性胃食道逆流症(NERD:ナード)」の2つに分けられます。逆流性食道炎は内視鏡検査で診断も付けやすく、また、胃酸分泌を抑える薬が効きやすいことが知られていますが、実際はNERDの患者数の方が多いことが知られています。逆流性食道炎とNERDは、いずれも食道への逆流によって起きる病気ですが、危険因子や薬剤の効き方が大きく異なっており、かなり違う病態と考えられています。

胃食道逆流症(GERD)の2大症状は「胸やけ」と「酸逆流症状」ですが、実際には食べ物がつかえる感じ・胸痛・もたれ感など多彩な症状が起きることが知られています。特に「食道外」に出現する喉の症状や気道の症状は見落とされやすく、原因不明の咳や喘息症状が、胃酸の逆流によって引きおこされていることが稀ではありません。原因不明の咳が胃酸を抑えることで改善する場合がかなり多いことが近年は分かってきましたが、医師でも見落とすことがありますので、注意が必要です。

胃食道逆流症(GERD)の危険因子として、様々な生活習慣が知られていますが、特に良くない食習慣は避けた方が良いとされています。具体的には、夜食(就寝前2~3時間は食事をなるべく控える)、早食い大食いなどの好ましくない食習慣が危険因子と考えられています。また、お腹の圧をあげる肥満きつすぎる衣服も良くないとされています。最近のトピックスとして、睡眠障害も強く関連していることが分かってきました。胃食道逆流症(GERD)患者の睡眠障害はこれまで、「就寝時の姿勢や、就寝中の唾液分泌の減少によってGERD症状が生じやすくなり、その結果として睡眠障害をきたす」と考えられてきました。しかし最近では、睡眠障害によって胃食道逆流症(GERD)が悪化する可能性が報告されており、胃食道逆流症(GERD)と睡眠障害は、相互に危険因子であると考えられるようになっています。

現在、軽症例も含めると、胃食道逆流症(GERD)の患者は、我が国の成人の25%を超えるとされ、極めて身近な病気になっています。優れた胃酸分泌抑制剤が開発され、使えるようになっていますが、まずは生活習慣の見直しによって、病気の発症を抑えるようにしましょう。また、様々な症状を呈することがありますので、もしかしたら、、、と思ったら、専門医に相談されることをお勧めします。

(山道信毅)

【逆流性食道炎の分類】N:正常、M→A→B→C→Dの順に悪化します。

20189月に新たにオープンした東大病院予防医学センター(人間ドック)は、201810月の受診者枠の増加に続き、20194月に更なる増枠をいたしました。現在は予約が非常に取りやすくなっていますので、皆さまの健康維持のために、ぜひ、東大病院予防医学センターの人間ドックをご活用ください。